IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

逐語訳ってどうなんですか

あるクライアント(ソフトウェアのベンダー)のスタイルガイドに、「provideをいつも『提供』と訳すとは限らない」などという規則が書かれていました。そんな当たり前のことまで書くからスタイルガイドのページが増えるんだよ、と思いましたが、そのクライアント以外の案件ではprovideと言えば「提供」で決まりという訳し方って結構多いですね。
コンピュータ関係の翻訳なので、文章の美しさを追求するのではなく、逐語訳でもいいから正確に分かりやすくというのをよく聞きますが、私がレビューする訳文で「提供」が使われていたらちょっと身構えてしまいます。なぜかというと、provideを常に「提供する」で済ませている人は、文章の意味を充分理解せずに機械的に単語を置き換えていることが多いからです。「豊富なオプションは管理者に柔軟性を提供します」などという、マニュアルの冒頭によくある製品の紹介文ならどっちでもいいのですが、たとえばAPIのリファレンスガイドなどでもこの調子だと、読者が困ることもあるのではないでしょうか?
listという動詞が「リストする」と訳されているのをよく目にします。私は、やたらカタカナ語を使うのは好きではないので

選択可能なオプションが左のボックスにリストされます。

ではなくて

選択可能なオプションが左のボックスに一覧表示されます。

と変えてしまいます。でも、list=「一覧表示する」で万事OKではないのです。

You can list more than one server in the Destination parameter.

という英文が

複数のサーバーをDestinationパラメータに一覧表示できます。

と訳されているのを見たときは、翻訳者を呼び出して問いつめたくなりました。ルーチンを呼び出すためのパラメータを設定するときに一覧表示してどうする。この場合は「列挙する」ということですが、先に「複数のサーバーを」と言っているので、単に「指定できます」でよいと思います。