IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

製品紹介資料の翻訳

製品紹介資料の訳というのはやっかいですね。まあ、翻訳というのは本来こういうもので、ソフトウェアの操作手順のようにほとんど考えなくてもできるほうが特別なんですが。で、その製品紹介資料の英日翻訳のレビューをしているのですが、翻訳者の一人は超逐語訳で、言葉の意味を考えないで訳を当てているのがバレバレです。もう一人は、翻訳会社によればこの手の文書を得意としているらしく、訳文は一見こなれていますが、英文と突き合わせて見ると「ちょっと違う」箇所がたびたび見つかります。
私自身、この手の文書の翻訳はあまり得意ではなくて時間がかなりかかるのですが、こういうのが得意な人はどこにいるんでしょうね。クライアントあるいは翻訳会社から、「こなれた訳文」だの「柔らかい訳文」だのという注文が付けられることがありますが、それは原文の意味が正しく訳文に反映されてからの話でしょう。原文の意味を正しくとらえてなかったら、こなれたも柔らかくもないものです。
英語ではよく、抽象的な表現が使われるのですが、これが悩みの種です。availabilityが「可用性」とは限らないし、installationも「インストールされたもの」を指していたら単に「インストール」と訳すわけにはいきません。この辺の、原文の意味をきっちり理解するのに時間がかかるのですが、翻訳会社によっては普通のマニュアル翻訳に近いペースで翻訳作業期間を計算してくるので、納期に間に合わせようとすると逐語訳になってしまうのかもしれません。でもそれでいいのでしょうか。翻訳者側も、「難しいものをそれなりの質に仕上げるのにはもう少し時間が必要(&単価も上乗せが必要)」ということをもっと主張してもいいと思います。もっとも、超逐語訳の人は「ソース言語の単語とターゲット言語の単語は1対1」と信じて疑わないみたいなので、時間が倍になったところで大して出来は変わらないような気もします。