IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

see=「確認する」?

昨日取り上げた部分の続きです。引用元は「Windows Vista カーネルの内部」(http://www.microsoft.com/japan/technet/community/columns/secmgmt/sm0708.mspx、英語版はhttp://technet.microsoft.com/en-us/magazine/cc162458.aspxと思われます)です。

また、トランザクションがコミットされるまで、他のアプリケーションからはトランザクション内で行われる変更を確認できないことや、Windows Vista およびまもなくリリースされる Windows Server® "Longhorn" で DTC を使用するアプリケーションはトランザクションSQL Server™、Microsoft® メッセージ キュー サーバー (MSMQ) などのデータベースと調整できることも大きなメリットです。したがって、KTM トランザクションを使用するアプリケーション更新サービスでは、アプリケーションが一貫性のない状態で残ることがなくなります。Windows Update とシステムの復元がどちらもトランザクションを使用している理由はこの点にあります。

As a further benefit, other applications don't see changes made in a transaction until the transaction commits, and applications that use the DTC in Windows Vista and the forthcoming Windows Server®, code-named "Longhorn," can coordinate their transactions with SQL Server™, Microsoft® Message Queue Server (MSMQ), and other databases. An application updating service that uses KTM transactions will therefore never leave the application in an inconsistent state. This is why both Windows Update and System Restore use transactions.

「確認」の意味は「はっきり認めること。また、そうであることをはっきりたしかめること」(大辞泉)です。しかし、このseeは「確かめる」でしょうか? 文字通り、「あるアプリケーションがトランザクションの中で行った変更は、そのトランザクションがコミットされるまで、他のアプリケーションからは見えない」でよいと思います。変更があったかどうかも他のアプリケーションからは分からないということなので。クライアントから支給されるスタイルガイドに「○ 使用する ×使う」などという指示があるせいか、動詞は和語よりも漢語のほうがよいと考える翻訳者もいるようですが、だからといってseeの訳を「確認する」に「統一」する必要はないと思います。
Windows Server® "Longhorn" で DTC を使用するアプリケーションは」のDTCは「分散トランザクション コーディネータ」の略ですが、「"Longhorn" で」は「DTC を使用する」を修飾しているのでしょうか? 「"Longhorn" の DTC を使用するアプリケーションは」でいいような気もしますが、DTC自体は以前からある機能なので、Vista & 2008 Serverで何か変わっているのかどうかは調べないとわかりません。
トランザクションSQL Server™、Microsoft® メッセージ キュー サーバー (MSMQ) などのデータベースと調整できる」…coordinateの訳はやっかいですね。確かに、英和辞書に載っている語義の一つに「調整する」もありますが、「調整」といえば adjustやtuneのほうを想像します。coordinateの意味を英英辞典で調べると、「organize something complex」に加えて「make parts move together」や「put things together」も載っています(http://encarta.msn.com/encnet/features/dictionary/DictionaryResults.aspx?refid=1861600168)。つまり、「アプリケーションのトランザクションSQL Serverなどのデータベースと連携させることができる」ということだと思います。
普段のレビューの仕事でも、こんな感じで訳文を修正しているのですが、毎度同じ修正をしたくないので翻訳者にフィードバックしようにも、フィードバックのしかたが難しいんですよね。coordinateやseeという単語の訳について次回から気を付ければいいっていうものでもないし。「訳文だけ読んで読者がすんなり理解できるようにしてください」とPM経由で伝えてもらってはいるのですが。