IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

「in a timely fashion」の訳し方

先日(11月14日)、アメリカのオバマ大統領が演説しているのをテレビで見ました。副音声で聞いていたら、ふだん訳すのに苦労しているフレーズがいくつか使われていて、アメリカの人たちはああいう表現を普段から使っているんだなと思ったものです。その一つが「in a timely fashion(timely manner)」です。

An integral part of this new strategy is working towards an ambitious and balanced Doha agreement ― not any agreement, but an agreement that will open up markets and increase exports around the world. We are ready to work with our Asian partners to see if we can achieve that objective in a timely fashion ― and we invite our regional trading partners to join us at the table.
出典:http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/nn20091115f3.html

Longman Dictionary Of Contemporary Englishには

in a timely manner/fashion (=as quickly as is reasonable in a particular situation)
We aim to settle all valid claims in a timely manner.

という定義が載っています。そのままだと「その状況において妥当と考えられる早さで」という感じですが、まさかこのとおりに書くわけにもいかず、かといって単に「早く」だとちょっと違うような気がしていつも悩みます。新聞社・通信社のWebサイトには演説の和訳が載っていたので、この部分がどう訳されているかを比較してみました。

共同通信http://www.47news.jp/CN/200911/CN2009111401000706.html

 この新戦略において欠くことのできない部分は、野心的でバランスの取れたドーハ・ラウンド新多角的貿易交渉)の合意に向け取り組むことだ。それは市場を開放し、世界中の輸出を増やす合意以外の何物でもない。われわれは時宜を得たやりかたで、この目的を達成できるかどうか見極めるため、アジアのパートナーとともに取り組む用意がある。そしてわれわれの地域の貿易パートナーを、テーブル(取り組み対話)に招く。

朝日新聞http://www.asahi.com/international/update/1114/TKY200911140237.html

 新戦略で不可欠なのは、野心的で均衡のとれた多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)妥結に向けた努力だ。どんな合意でもいいというわけではなく、世界中の市場を開放し、輸出を増やすという合意だ。我々は時期を逃さずその目標を達成できるかどうかについて、アジアのパートナーと協力する用意がある。米州地域の貿易相手国も協議のテーブルに招待する。

読売新聞(http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20091114-OYT1T01022.htm

 新戦略の重要な一部が、世界貿易機関WTO新多角的貿易交渉ドーハ・ラウンド)で、野心的で均衡の取れた合意を達成することだ。これは単なる合意ではなく、世界中の市場を開放して輸出を増やすものだ。その目標をタイミング良く達成するため、我々はアジアの関係国と協力していく準備があり、地域の貿易相手国を交渉のテーブルに招く所存だ。

日本経済新聞http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt245/20091113MMSHaa000013112009.html

 新戦略の欠かせない要素は世界貿易機関WTO)の多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)の合意に向けて前進することだ。単なる合意ではなく、市場を開放し、世界中の輸出を拡大する合意を得ることだ。
 我々はアジアの仲間と迅速に目的を達成するため協力する用意があり、この地域の貿易相手にも交渉のテーブルにつくよう招きたい。

毎日新聞http://mainichi.jp/select/seiji/news/20091114mog00m010038000c.html

 この新戦略で不可欠な部分は、野心的で均衡の取れた(世界貿易機関WTO=の多角的貿易交渉である)ドーハラウンドの合意へ向けた前進だ。どんな合意でもよいというわけではなく、全世界の市場を開放し、輸出を増大させる合意でなければならない。この目標を我々がタイムリーに達成できるかどうか。それを確かめるため、我々はアジアのパートナー諸国と協力する用意がある。また、我々は地域的貿易パートナーをも協議のテーブルに招きたい。

朝日新聞の「時期を逃さず」というのはうまい表現なので、参考にしようと思います。