指示がなかったらヤード・ポンド法の数字はそのままでよい?

先日、あるハードウェアを制御するソフトウェアの操作説明書の翻訳レビューをしていたのですが、翻訳者はヤード・ポンド法の数値を全部原文のままにしていました。英日翻訳の仕事ではほとんどの場合、スタイルガイドや翻訳仕様書が支給されて、その中に「数値はメートル法に換算して表記する」などと書かれています。しかし今回の案件では、クライアントからのスタイルガイドなどはありませんでした。だからといって、数値がヤード・ポンド法のままというのはどうかと思います。
もちろん、業界によっては日本国内でもヤード・ポンド法が一般的なところはあります。航空業界とか。データセンター用の機器でも、「サイズは19インチです」などと書かれているときは、実際の寸法というよりは19インチラックに収まるという意味のことがあるので、そういうときは「19インチ」のままでよいと思います。
しかし、「本製品の先端から約1.5インチのところを手で持って」のような文脈の数値は、日本向けの製品の説明だったらメートル法に換算すべきでしょう。読者に「1.5インチ=3.81cm」などと計算させるつもりですか。
換算のしかたも、たとえばマイルをkmに換算するのに単に1.609をかければよいというものでもありません。以前、あるエッセイの著者が、完了までに時間がかかり困難であることをマラソンにたとえて「26マイルを走るような」と表現していたことがありました。これを、ある翻訳者は「約42kmを走るような」などと訳していました。日本では、マラソンといえば42.195kmに決まってます。約42kmじゃ走ったことになりませんよね。
数字の意味と換算について、もう一つ思い出しました。ある企業のホワイトペーパーの中に、建物のコスト節約のシミュレーションの結果が記載されていました。翻訳者が訳した文章を見ていたところ、「930平方メートルあたりのコストがxxxドルからxxxドルになる」という文がありました。ずいぶん半端な数字だと思って原文を見たら「1万平方フィートあたり」でした。こういうのは、切りのいい数字を単位にしているのだから、平方フィートのままでよいと思います。
指示がなかったら数値の換算なんて翻訳者の仕事ではないと言われそうですが、日本向けの表記に直すのは「ローカライズ」の一部でしょう。Tradosを使うような案件だから「ローカライズ」に分類されているのではありませんので。