IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

調べ物にかける時間

翻訳の仕事をしていて楽しいと思えるのは、初見時はさっぱりわからなかった原文の意味がわかるようになったときです。あれこれ調べ物をして疑問点が次々と消えていくのは、まるで霧が晴れていくかのようです。そうして、原文の抽象的な表現の具体的な意味を理解できるようになったら、時間の許す限りああでもないこうでもないと訳文をいじり倒します。
他の人が訳したものをレビューしているときに、その人があまり調べ物をしていないのはすぐにわかります。抽象的な表現が抽象的なままだったりするので。わからないことをわからないままにしておくのって、気持ち悪くないですか? まあ、ワード数が少ないのに調べ物に時間をかけていられないというのはよくわかります。時間をかけさせてくれる翻訳会社もありますけどね。私は以前、1,500ワードほどのbrochureの翻訳という仕事をしたことがあります。その翻訳会社のPMは、マニュアルと違って調べ物に時間がかかるということをよく理解していて、納期は1週間後に設定してくれました。が、発注書を見たら、翻訳料は1,500ワード×いつもの単価でした…。
IT翻訳のproductivityは1日2,000ワードが標準ということになっていますが(翻訳会社によってはもっと多く設定されているらしい)、これはあくまでもマニュアルやヘルプの翻訳の場合で、それもある程度のボリュームをこなしたときの平均ですよね。極端な話、250ワードを1時間で翻訳しろと言われても、できる範囲でやりますとしか言えません。その文章がどういう場面で使われるかを理解して、適切な文体と訳語を選ぶという作業は、250ワードでも1万ワードでも同じぐらいかかるのです。どんな案件でも単純にワード数×単価で報酬を計算するのではなく、実際の作業量に見合った報酬を払ってもらえるようにしていただきたいものです。