IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

訳文だけ読んで理解できますか?

引き続き、MicrosoftのCognitive Servicesのページで気になった点を挙げてみます。UBERの事例です。

Cognitive Services - AI ソリューション向け API | Microsoft Azure

顔認識によってプラットフォームのセキュリティが大幅に向上

Uber は Cognitive Services を使用して、アプリを使用しているドライバーが、記録されているアカウントと一致していることを確認できるようにして、不正行為を防いでいます。

CEOでもプロダクトマネージャーでもいいのですが、自分がこの製品をプレゼンする立場になったつもりで訳文を読んでみるといいと思います。「Uber は Cognitive Services を使用して、」から「不正行為を防いでいます。」までが長すぎませんか? アプリを使用しているドライバーが何の一致を確認できるようにしているのか、聞いた人は理解できますか?

英語版を見てみましょう。

Cognitive Services—APIs for AI Solutions | Microsoft Azure

Facial recognition boosts platform security

Uber uses Cognitive Services to safeguard against fraud by helping to ensure that the driver using the app matches the account on file.

Uberは不正行為防止のためにCognitive Servicesを使っているのですね。アプリを使うドライバーと、登録された情報とが一致していることを確認するのにCognitive Servicesが使われていると。ここはCognitive Servicesの事例のページなのだから、何の目的で使われているかを先に述べた方がいいと思うんですよね。具体的な方法はその後でも。たとえば、「Uberは不正行為防止を目的としてCognitive Servicesを使用しています。アプリを使用するドライバーと記録されているアカウントとが一致していることを確認するのにこのサービスを活用しています」のように。リンク先のページを見ると、Uberはドライバーの本人確認のために定期的に自撮りポートレートを送らせているのですが、登録時の写真と照合するのにAIが活躍しているというわけですね。

プレゼンする立場になったとしてこの英文を読み上げたら、Uber uses Cognitive Services to safeguard against fraudでいったん切りますよね? だから日本語でも同じ順序で述べるのが一番わかりやすいと思うのですが、どうもセンテンスを分けるのはあまり好まれないようです。

あと、「不正行為を防いでいます。」を文末に置いてしまっていいのでしょうか。これのおかげで不正行為が1件も起きていなければ「防いでいます」と断言できますが。