IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

機械翻訳を使ってもあまり省力化できない理由

Microsoftはこんなサービスも提供しているのかと感心しつつ見ていたページで見つかった表現です。

azure.microsoft.com

 

azure.microsoft.com

Microsoft Azureの他のサービスと同様に、概要から始まってこのサービスでできることの説明があり、最後に実際に使うための情報があるのですが、その記述です。

分単位の速度で衛星と通信する

Azure Orbital Ground Station は、任意のサイトから任意のリージョンへの衛星データの無料バックホールを提供します。衛星との連絡を従量課金制でスケジュールします。

Communicate with satellites at a per-minute rate

Azure Orbital Ground Station provides free backhaul of satellite data from any site to any region. Schedule contacts with satellites on a pay-as-you-go basis.

さて「分単位の速度で通信する」とは。先に書いておきますが、上記の日本語テキストは、その下の英文をEdgeブラウザーの翻訳機能で翻訳した結果と全く同じです。Microsoft Translatorが学習した結果なのか、Microsoft translatorsが機械翻訳の出力を見てOKを出したのかはわかりません。でも人間が翻訳していたら、「分単位の速度」という日本語がおかしいと思いませんか?

こういう短い文章を訳すとき、最初にすることは文脈の確認です。どういう製品に関係していて、その製品の何を伝えようとしているか。これは機械翻訳+ポストエディットでも変わらないはずです。最初から訳文が何かしら入っているので入力の手間は多少省けるとしても、文脈の確認にはその省かれた時間の何倍もの時間がかかります。そんなの確認しなくていいから字面どおりに訳せというのは無茶な要求です。あと、その分野特有の言い回しを調べるのにも時間がかかります。衛星とのcontactを「連絡」と訳してよいかどうかは、一応調べますよね? 

もちろん、ドキュメントの形態によっては機械翻訳でかなりの省力化が期待できるケースもあると思いますが、少なくともこのようなマーケティング系のコンテンツにはあまり適していないように思います。

いずれ、機械翻訳がもっと賢くなって文脈も自動的に察知して、「分単位の速度」ではなく「分単位の料金」と訳してくれるようになるかもしれません。前述のテキストの横には棒グラフとドル記号を組み合わせたグラフィックがありますので。今の人間翻訳のやり方がいつまでも通用するとは限らないかもしれません。

ここまで書いた後で、DeepLで試してみたら「料金」と訳されていました(他の部分の訳はちょっと怪しいものの)。

分単位の料金で衛星と通信可能

Azure Orbital Ground Stationは、どのサイトからでも、どの地域からでも、衛星データのバックホールを無償で提供します。衛星との通信を従量課金制でスケジューリングします。