IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

「people with disabilities」を日本語でどう表現するか

Microsoftでは「障害のあるユーザー」だそうです。

先日から取り上げている、Microsoft Azureのトップページ(https://azure.microsoft.com/ja-jp/)の下のほうに、次のような記述があります。

独学で学んだ開発者が、音声と顔の合図を利用したビデオ ゲーム コントローラーを開発し、障害のあるユーザーの活躍の場を広げることに貢献した事例をご覧ください。

 

英語版(https://azure.microsoft.com/en-us/)では次のとおりです。

See how a self-taught developer helped level the playing field for people with disabilities by creating a video game controller that uses voice and facial cues.

「事例を見る」の動画に登場するのは、いくつものdisabilitiesがあるためゆっくりとしかゲームをプレイできない弟のために、顔の表情と声を使うコントローラーを独学で、Azureのサービスを使って開発した人です。日本語版の「障害のあるユーザー」は、何を使う人を指しているのでしょうか。この事例のpeople with disabilitiesは、Microsoft Azureの直接のユーザーではありません。このself-taught developerがしたことは「helped level the playing field for people with disabilities」ですが、このpeopleはコントローラーを使う人のことですか? 

このlevel the playing fieldという抽象的な表現が「活躍の場を広げる」と訳されているのを見ると、これを訳した人はおそらく事例の本文を読んで(動画を見て)いませんね。英和辞典の「機会を均等にする」(コンパスローズ英和辞典)という説明も見てなさそうです。self-taughtで何を学んだかを理解していないから「独学で学んだ」という明らかに冗長な表現を平気で使うし、self-taught developerが成し遂げたことのすごさに関心がないのでしょう。

操作マニュアルの文章に登場するuserとは異なり、事例に登場するpeopleは実在する生身の人間なのだから、常に敬意が感じられる表現であるようにしたいものです。