IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

Modernizeとは

Microsoft Azureのトップページ(https://azure.microsoft.com/ja-jp/)ですが、先日のブログを書いた直後にまた文言が変更されていました。

https://azure.microsoft.com/en-us/

大見出しの内容は前のバージョンと同じですね。今度はその下のテキストも日本語になっています。

クラウドとオンプレミスへの投資を移行、最新化、最大化します。従量課金制の料金で今すぐ始めましょう。事前のコミットメントはなく、いつでもキャンセルできます。または、Azure を最大 30 日間無料でお試しください。

Migrate, modernize, and maximize your cloud and on-premises investments. Get started now with pay-as-you-go pricing. There's no upfront commitment—cancel anytime. Or try Azure free for up to 30 days.

投資の移行、最新化、最大化とはなんのことでしょう。英和辞典でmaximizeの語義を調べると「最大にする」の他に「最大限に活用する」というのもあるので、こちらの意味で使われているのではないかと思うのですが。

それよりも、もっと気になるのが「最新化」です。英語ではmodernizeです。最近、日本のIT企業の広告などで「モダナイズ」「モダナイゼーション」というカタカナ語をよく見かけるようになりましたが、modernにすることをMicrosoftでは「最新化」と表現しているのですね。このページの他の部分にもmodern、modernize、modernizationという単語が出現していますが、日本語版では1か所だけ「モダン化」で、あとは「最新」「最新化」です。ローカライズの仕事をしていると、「カタカナ語を避ける」という指示を受けることがよくあるのですが、これもそのパターンでしょうか。

Google検索で「モダナイズ」という検索語句を指定すると、私の環境ではこのページが最初にヒットします。

atmarkit.itmedia.co.jp

この記事が公開されたのは2014年11月です。8年も前から「モダナイズ」という言葉はあったのですね。しかも登場しているのは日本マイクロソフトの人です。

この記事の冒頭部分を引用してみます。

 近ごろ、エンタープライズITに関する話題の中で「モダナイズ」あるいは「モダナイゼーション」という言葉を聞くことが増えていないだろうか。字義通りに訳せば「現代化(する)」といった意味だが、特にシステム開発の分野では「数世代前の技術を用いて作られた古いシステムや方法論を、最新の技術要素を使って、より現代的なものへと作り変える」といった意味で使われることが多いようだ。

 そして、この「モダナイズ」は、古いシステムに対してだけ使われているわけではない。日々、新たな技術が生まれ、市場環境も変化し続けるIT業界においては、エンジニア自身も自ら「モダナイズ」していく必要がある。

「古いシステムや方法論を、より現代的なものへと作り変える」。確かに「最新化」かもしれませんが、古いシステムと現代的なものとの間にははっきりとした境界があるわけですよね。バージョンアップして「最新」にするのではなく、その境界を越えてmodernにするということです。

カタカナ語で済ませないでなるべく日本語で表現する」というローカライズ業界での指示は、読者のことを考えるともっともなのですが、英語圏からやってきた新しい概念を日本語でどう表現するか、ローカライズ業界があれこれ考えているうちに日本のIT業界ではそのままカタカナ語として浸透してしまっているというケースが結構あるのではないかと思います。