IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

前置詞acrossをどう訳すか

年も改まりましたのでMicrosoft Azureのトップページ(https://azure.microsoft.com/ja-jp)を見に行ってみたところ、冒頭の部分が更新されていました。

大見出しは、英語版では「Power your vision」、日本語版では「あなたのビジョンを実現」です。体言止めということは、その後に何が続くかは自分で考えてくださいということですね。実現してくれるのか実現しなさいなのか。

それに続く文章です。

包括的なクラウド プラットフォームでワークロードと環境全体を最適化し、より多くの成果を実現できます。従量課金制の価格で今すぐ利用し始めることができます。事前契約はなく、いつでもキャンセルできます。Azure を最大 30 日間無料でお試しになることもできます。

Optimize across workloads and environments and accomplish more with a comprehensive cloud platform. Get started now with pay-as-you-go pricing. There’s no upfront commitment—cancel anytime. Or try Azure free for up to 30 days.

英和辞典でacrossを調べると、基本的な意味は「十字に」であり、「~を横切る」、「~を越える」、「~の端から端まで」などの意味で使われるといった解説があります。上記のacross workloads and environmentsが「ワークロードと環境全体を」と訳されているのは、「ワークロードと環境の端から端まで」の意味だからでしょうか。

前置詞acrossに続く名詞が単数形のときはそれでもいいかもしれませんが、ここでは複数形です。複数の「workloads and environmentsをまとめて最適化」という意味がこめられているのではないでしょうか。しかも文末には「with a comprehensive cloud platform. 」があります。複数の何かに1つのもので対処できることは、セールスポイントとしてアピールすべきではないでしょうか。

それに続く文章の内容は、以前のバージョンと比べて大きな変化はありませんが、日本語版は若干表現が変化しています。「no upfront commitment」は「事前契約はなく、」にしたのですね。ついでに、大見出しの上の青い小さな文字の「AZURE. INVENT WITH PURPOSE.」が復活していますが、日本語訳では以前1文だったのが「Azure。目的を持って創造する。」という2文となっていますね。