IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

identity=ID?

マイクロソフト セキュリティ ニュースレター 第 3 巻 9 号」の「マイクロソフト本社の技術者によるセキュリティコラム」からの引用です。

この信頼されているサブシステムのアクセス方法では、アプリケーションは独立型の ユーザー ID である独自のアプリケーション プロセスの ID を使用しながら常にデータベースに接続しています。それからサーバーは、アプリケーションが読み取りまたは操作可能なデータベース オブジェクトへのアプリケーションのアクセス許可を与えます。
http://www.microsoft.com/japan/technet/community/columns/secmgmt/sm0807.mspx


With the trusted subsystem access method, the application always connects to the database using its own application process identity, independent of the identity of the user; the server then grants the application access to the database objects that the application can read or manipulate.
http://www.microsoft.com/technet/community/columns/secmgmt/sm0807.mspx

「independent of the identity of the user」が「独立型の ユーザー ID である」ですか。「independent」は「独立型」で「of」は「の」と、単語を一つずつバラバラに訳す癖がついているんでしょうね。このコラムの訳は全体的にこんな感じで、内容そのものは私が今かかわっている案件と重なる部分があるのですが、まったく参考になりません。
ただ、「identity of the user」を「ユーザーID」と訳すのはこのコラムに限ったことではなくて、わりと一般的のようです。http://www-06.ibm.com/jp/manuals/nlsdic/nlsdic.htmlでも、user identityの訳が「ユーザー ID」となっています。でも、IDは「identifier」のことでもありますよね。user identityは各ユーザーの「身元」で、user identifierは各ユーザーを区別するために使用される一意のコードのことです。
ここで引用した文章で説明しているのは「実際のユーザーのidentityではなくアプリケーションプロセスのidentityを使ってデータベースにアクセスする」という手法ですが、identityをIDと訳してしまうと、「『user001』などのユーザーIDではなく『proc001』といったアプリケーションプロセスIDを使う」というコード体系の話をしているのかと思われてしまいます。データベースから見れば、実際のユーザーもアプリケーションも「ユーザー」ですが、要は個々のユーザーの身元を隠してアプリケーションプロセスが1人の「ユーザー」としてデータベースにアクセスするということなので、identifierではなくidentityの話をしていることをはっきりさせる必要があります。
では、このidentityをどう訳すか。「身元」なども考えられますが、「アイデンティティ」でよいのではないでしょうか。