IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

機械翻訳に負けているMicrosoftの人間翻訳

ITソリューションの導入事例の書き方を調べているので、Microsoft Azureの他のサービスのページもいろいろ見ていたのですが、また文学的な表現(?)が見つかりました。

Azure Active Directory 外部 ID | Microsoft Azure

「あらゆる規模の企業から寄せられる信頼」という見出しの下にある、Nuffield Healthという組織の事例の概要です。

健康とフィットネスのためのセキュリティで保護された Web ポータル

Nuffield Health が 100 万人のメンバーに達したとき、ユーザー ポータルをすばやく作成する必要がありました。Azure AD External Identities を使うことにより、メンバーのジムの予約、トランザクション、フィットネスの目標、健康記録、その他のデータを 1 つの包括的なビューに主役にすることができました。

「その他のデータを 1 つの包括的なビューに主役にすることができました」とはまた凝った表現、と思いましたがてにをはが変ですね。英語版を見てみましょう。

Azure Active Directory External Identities | Microsoft Azure

Secure web portal for health and fitness

When Nuffield Health reached 1 million members, they needed to create a user portal fast. Azure AD External Identities enabled them to aggregate members’ gym appointments, transactions, fitness goals, health records, and other data into a single, holistic view.

「主役」という単語はどこから来たのでしょう。「Nuffield Health が 100 万人のメンバーに達したとき、」という逐語訳が怪しいのでもしやと思ってEdgeの翻訳機能で日本語に訳してみたらやはり。

健康とフィットネスのための安全なWebポータル

Nuffield Health が 100 万人のメンバーに達したとき、彼らはユーザーポータルを素早く作成する必要がありました。Azure AD 外部 ID を使用すると、メンバーのジムの予定、トランザクション、フィットネスの目標、健康記録、およびその他のデータを 1 つの全体的なビューに集約できました。

このページがどうやって翻訳されたかは不明ですが、機械翻訳されたという但し書きはないので人間が翻訳したものですよね。でも「Nuffield Health が 100 万人のメンバーに達したとき、」がまったく同じなので、機械翻訳+ポストエディットかもしれません。それにしても「集約」が「主役」って。

Edgeの機械翻訳機能がこのWebページの日本語版から学習した結果、まったく同じ日本語テキストが出力されるという可能性はあるのでしょうか。だったら全部既存のWebページと同じになるはずですよね。

ついでに、他にも気になった箇所があったので英語版を機械翻訳してみました。

Academy of motion artsの事例の概要です。まず現在のページの日本語版と英語版です。

映画のイノベーション

オンプレミスのインフラストラクチャをクラウドに移行した後、Academy of Motion Picture Arts and Science (映画芸術科学アカデミー) は、 Azure AD External Identities に依存してメンバー向けの Web アプリとモバイル アプリの ID とアクセス管理を処理しています。

Innovations in cinema

After migrating its on-premises infrastructure to the cloud, the Academy of Motion Picture Arts and Sciences relies on Azure AD External Identities to handle identity and access management for its member-facing web and mobile apps.

動詞relyには確かに「依存する」という意味がありますが、こういう文脈で「依存する」を使うとあまりポジティブな感じがしないんですよね。Edgeで英語から日本語に翻訳した結果は次のとおりです。

映画におけるイノベーション

オンプレミスのインフラストラクチャをクラウドに移行した後、映画芸術科学アカデミーは、Azure AD 外部 ID を使用して、メンバー向けの Web アプリとモバイル アプリの ID とアクセス管理を処理します。

「使用して」という、無難な表現が使われていますね。頼りにしているという意味を表現するのは難しいか。

ページ先頭に戻って、「Azure Active Directory External Identities」という製品名のすぐ下にあるテキストです。

組織を超えて顧客とパートナーの ID をセキュリティで保護し、管理します。

Secure and manage customer and partner identities beyond your organization.

Edgeで英語から日本語に翻訳した結果は次のとおりです。

組織外の顧客とパートナーの ID をセキュリティで保護し、管理します。

「組織を超えて」というあいまいな表現よりも意味がわかりやすいですね。英文だと製品名にexternalが入っていて「外部」なのは既にわかっているから、beyondという表現を使ったのかもしれません。

次は、この製品でできることの説明です。現在のページの日本語版と英語版です。

従業員をどこからでも接続する
オンサイト従業員とリモート 従業員の両方が、どこからでも生産性を維持できるように、すべてのアプリにシームレスにアクセスできるようにします。ワークフローを自動化して、ユーザーのライフサイクル管理とプロビジョニングを容易にします。外部ユーザー向けのセルフサービス ID 管理により、管理者の時間とリソースを節約できます。

Connect your workforce anywhere
Give both onsite and remote employees seamless access to all their apps so they can stay productive anywhere. Automate workflows for easy user lifecycle management and provisioning. Save admin time and resources with self-service identity management for external users.

「従業員を接続する」って、物じゃないんだから。機械翻訳の出力は次のとおりです。

どこにいても従業員をつなぐ

オンサイトとリモートの両方の従業員がすべてのアプリにシームレスにアクセスできるようにすることで、どこでも生産性を維持できます。ワークフローを自動化して、ユーザーのライフサイクル管理とプロビジョニングを容易にします。外部ユーザーのセルフサービス ID 管理により、管理者の時間とリソースを節約できます。

「ワークフローを自動化して、ユーザーのライフサイクル管理とプロビジョニングを容易にします。」は全く同じですね。どうして機械翻訳の「オンサイトとリモートの両方の従業員が」というすっきりした表現が、人間翻訳では「オンサイト従業員とリモート 従業員の両方が」というくどい表現に変わるのでしょう。しかも「リモート」と「従業員」の間に半角スペースがありますよ。

機械翻訳の出力は英文と同じ順序で、この機能でできることとその効果を述べているのに、人間翻訳ではわざわざ順序を入れ替えて「オンサイト従業員とリモート 従業員の両方が、どこからでも生産性を維持できるように、すべてのアプリにシームレスにアクセスできるように」というわかりにくい文章にする必要はあったのでしょうか。

せっかくなので他にも。これもこの製品でできることの説明です。現在のページの日本語版と英語版です。

ID ワークフローをアプリに統合する

シングル サインオンとユーザー プロビジョニングをサポートすれば、お客様のエンタープライズ アプリケーションが加速します。サインインの手間を減らし、ユーザー アカウントの作成、削除、メンテナンスを自動化します。

Integrate identity workflow into your apps

Accelerate adoption of your enterprise application by supporting single sign-on and user provisioning. Reduce sign-in friction and automate the creation, removal, and maintenance of user accounts.

機械翻訳の出力は次のとおりです。

ID ワークフローをアプリに統合する
シングルサインオンとユーザープロビジョニングをサポートすることで、エンタープライズアプリケーションの導入を迅速化します。サインインの摩擦を軽減し、ユーザー アカウントの作成、削除、および保守を自動化します。

人間翻訳の「…をサポートすれば、お客様のエンタープライズ アプリケーションが加速します」という妙な表現は、adoptionの訳が抜けた結果なのですね。「すれば」の意味はどこから出てきたのだろう。