2つの名詞を列挙するときの読点の使い方

support.google.com

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英語での見出しに動詞が2つあるときの訳し方はいろいろありますが、「~を行う」というスタイルを使うと決めたのなら、なぜ「開始または参加を」にしなかったのでしょうか。あるいは「Gmailからビデオ通話を開始する、または参加する」ではいけなかったのでしょうか(厳密には「Gmailからビデオ通話を開始する、またはビデオ通話に参加する」ですが)。

この「開始、参加」のように2つの名詞を読点でつなぐという表記を時々見かけるのですが、どういう理由でそうしているのかが気になります。もしかしてスタイルガイドで指示されているのでしょうか。だとしたら面倒ですね。

 

違和感のある「したりできます」

違和感の理由の説明はまだうまくできないのですが、Webで検索して見つかったものを貼り付けておきます。

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このページを開くとまず「クラウド プリント」という見出しが目に入ります。これがこのページの主題ですね。そのすぐ下の行には、少し小さい文字で「あらゆるデバイスから、クラウドに接続しているプリンタに印刷できます。 」と書かれていてます。「クラウド プリント」の要約ですね。その下には「アカウントのクラウド プリント ページに移動」というボタンがあって、このサービスを既に使っている人は直接サービスのページに飛べるようになっています。

その下にはイメージ画像(おそらくプリンターからの出力である紙)があり、その下に「どこからでも印刷」「何でも印刷」「プリンタの共有と管理」という3つの見出しが横に並んでいます。おそらく、この「クラウド プリント」の特徴ですね。その一つの「プリンタの共有と管理」の下には次のように書かれています。

Google アカウントを使って、プリンタと印刷ジョブを管理したり、プリンタを安全に共有したりできます。

この文はどう解釈すればいいのか。「管理したり」と「安全に共有したり」は読者に与えられた選択肢なのか。「Google アカウントを使って、プリンタと印刷ジョブを管理したり」の何がすごいのか。

いくら考えてもよくわからないので、英語版のページ(https://www.google.com/intl/en-GB_ALL/cloudprint/learn/)を見てみると、この部分のテキストは次のようになっていました。

Share & manage printers
Manage your printers and printing jobs, and share printers securely from your Google account.

このサービスのすごいところは、manageとshareをsecurely from your Google accountにできるということですよね。「たりたり」を使わなくても、「プリンターと印刷ジョブの管理、およびプリンターの共有をGoogleアカウントから安全に行うことができます」とでも表現できるのではないでしょうか。

日本語教育では「たり」の使い方をどう教えているか

 

日本語文型辞典

日本語文型辞典

 

 この書籍の「たり」の項には、次の4つの文型の説明があります。

1 …たり…たりする

(1) 休みの日には、ビデオを見たり音楽を聞いたりしてのんびり過ごすのが好きです。

いくつかのことがら、行為のうちの代表的なものを二、三あげる表現。ひとつだけ例をあげて、他にもあることを暗示する場合もある。

2 …たり…たり

(1) 何か心配なことでもあるのか、彼は腕組をして廊下を行ったり来たりしている。

ある状態、行為を交互に繰り返すときの様子、あるいはふたつの対照的な状態を表す。

3 …たり したり/しては

(1) 英語での生活にもだいぶん慣れたが、早口で話しかけられたりしたらわからなくて困ることも多い。

ほかにもあるという含みで例をあげる言い方。

4 …たりして

(1) A:変だね。まだだれも来てないよ。B:約束、あしただったりして。

例を1つあげる言い方。他にも可能性があるという含みで、直接はっきり言うことを避けるときなどに使われる。

 

「たり」の使い方が不適切である理由をうまく説明できない

support.apple.comこのページでの「たり」の使い方に違和感があり、自分ではこういう使い方をしたくないのですが、なぜそうしたくないかをうまく説明できません。とりあえずメモしておきます。英語のテキストは Browse the web using Safari on iPad - Apple Support からです。

Safari App では、Webをブラウズしたり、後で読めるようWebページを「リーディングリスト」に追加したり、ページアイコンをホーム画面に追加してすばやくアクセスできるようにしたりできます。すべてのデバイスで同じApple IDを使ってiCloudにサインインしている場合、ほかのデバイスで開いているページを表示したり、すべてのデバイス上でブックマーク、履歴、およびリーディングリストを最新の状態に保ったりすることができます。 

With the Safari app , you can browse the web, add webpages to your reading list to read later, and add page icons to the Home screen for quick access. If you sign in to iCloud with the same Apple ID on all your devices, you can see pages you have open on other devices, and keep your bookmarks, history, and reading list up to date on all your devices.

 

「表示」メニューを使用して、テキストサイズを大きくまたは小さくしたり、リーダー表示に切り替えたり、プライバシーの制限を指定したりできます。 

Use the View menu to increase or decrease the text size, switch to Reader view, specify privacy restrictions, and more.

 

ダウンロードボタン をタップすると、ダウンロード中のファイルの状況を確認したり、ダウンロード済みのファイルにすばやくアクセスしたり、ダウンロード済みのファイルを、作業中の別のファイルやメールにドラッグしたりできます。 

Tap the Downloads button to check the status of a file you’re downloading, to access downloaded files quickly, or to drag a downloaded file onto another file or into an email you’re working on.

 

コンピューターウイルス関連の文章のquarantineの訳は「検疫」でよいのか

私が英日翻訳の仕事でquarantineという単語に遭遇するときの文脈は、ほぼ100%がコンピューターウイルスです。そのような案件の用語集にはたいてい、quarantineの横に「検疫」という日本語訳があります。そうすると、たとえば画面項目として「Quarantine」というストリングがあったら日本語訳も「検疫」となりますね。「quarantined message」は「検疫済みメッセージ」、「This message has been quarantined」は「このメッセージは検疫されました」。

でも、本当にこれでよいのでしょうか。「メッセージは検疫されました」という日本語のテキストを読んだ人はどう解釈するか。海外旅行から帰国したときに空港の入国審査場に行く手前にある「検疫」も確か「Quarantine」だから、あそこを通過するイメージで、メッセージの検査が終わったと解釈されるかもしれません。国語辞典でも、「検疫」の説明は“検査して必要に応じて隔離や消毒などの措置をとること”などと書かれています。

quarantineという言葉はもちろん、元々は人間や動物の伝染病拡大予防について述べるときに使われていたものであり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行が始まってからは私が目にすることも一気に増えました。米国CDCの「Quarantine If You Might Be Sick」という記事(https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/if-you-are-sick/quarantine.html)には、次のような文章があります。

Quarantine is used to keep someone who might have been exposed to COVID-19 away from others. Quarantine helps prevent spread of disease that can occur before a person knows they are sick or if they are infected with the virus without feeling symptoms. People in quarantine should stay home, separate themselves from others, monitor their health, and follow directions from their state or local health department. 

これは「検疫」ではありませんよね。「隔離」でしょう。コンピューターウイルス関連の文章でも、同じような意味で使われていると思います。だから「このメッセージは検疫されました」ではなく「このメッセージは隔離されました」とすべきでしょう。

実務翻訳の仕事ではもちろん、支給された用語集に従うことは必須ですが、指定された訳語を使った結果の訳文がなんだか変だったら、用語集を疑ってみることも必要です。用語集だって人間が作っているものなのだから、完全ということはありえません。

 

翻訳対象のセンテンスの文脈を分析するのは翻訳者の仕事ですか?

最近は少し時間の余裕ができたので、改めて基本に戻ってみようと思い、積ん読になっていた参考書を読み返してみたりしています。「良い翻訳とはどういうものか」についてのコンセンサスが、業界内でも取れていないように思えるので、有識者による「翻訳はこうやってするものだ」という解説を求めているのです。

 

 この本は、「翻訳に必要な基本スキルは5つだけ」として、英文を日本語に訳す前に原文分析の重要性を述べているところはとてもよいと思います。でも、そのスキルを具体的に活用する方法の説明に使われている例というのがOptimists can cope more effectively with stress.というセンテンス1つだけです。センテンス1つだけを訳せと言われて訳す気になりますか?  確かに「この英文は、どのような内容の文章からの一節なのか。もう少し詳しい文脈を知りたい。」という「原文分析スキル」の適用の説明にはなっていますが、それって翻訳する人が分析するものなのでしょうか?

なぜ「翻訳」するかといえば、単なる英文解釈ではなく、訳した結果の日本語を何らかの用途で使いたいからですよね。この文章を「翻訳」しようと決めた時点で、その文章は誰に向けたどういう文章かがわかっているはずなので、それを翻訳者が推測するのは本来のやり方ではないと思います。

もっとも、現実問題としては、文脈もよくわからないテキストを「翻訳」しろと言われることはしょっちゅうです。発注元企業から翻訳会社がテキストを受け取って、ろくに分析しないまま翻訳者に発注するからですが。Web上で公開されているドキュメントなら検索で見つけてレイアウトを確認することもできますが、そうではない文書をxml形式でもらっても、どれがどこに表示されるかを推測するのはほんとうに大変です。

ソフトウェアのシステム要件を聞かれたらOSの次に何を答えますか?

www.sdl.com上記のページの「SDL Trados Studio 2019のシステム要件を教えてください。」という質問への回答は、次のように書かれています。

SDL Trados Studio 2019は、Microsoft Windows 7、Windows 8.1、Windows 10をサポートしています。

最小要件として、8 GBのRAMを搭載し、1024x768のモニタ解像度を備えたIntelまたはIntel互換のCPUベースのコンピュータを推奨します。

最適なパフォーマンスを実現するには、64ビット版オペレーティングシステム、16 GBのRAM、SSDドライブ、Intelの最新のCPUまたは互換性のあるCPUを推奨します。4K高解像度ディスプレイの完全サポートを計画しており、今後のリリースで追加機能として導入される予定です。表示問題の対処方法について詳しくは、このナレッジベース(KB)の記事でご確認ください。また、このKB記事で説明する修正を実施するアプリをSDL AppStoreから取得して実行することもできます。

 Trados StudioがWindows 7と8.1と10をサポートしているのはわかりました。問題はその次の文です。https://www.sdl.com/software-and-services/translation-software/sdl-trados-studio/faqs.htmlにある英語での説明と並べてみます。

最小要件として、8 GBのRAMを搭載し、1024x768のモニタ解像度を備えたIntelまたはIntel互換のCPUベースのコンピュータを推奨します。

As a minimum requirement, we recommend an Intel or compatible CPU-based computer with 8 GB RAM and a screen resolution of 1024x768. 

日本語のページは英語から翻訳されたものと想定していますが、この訳は正しいと言えるでしょうか。英語の原文に書かれていることは日本語訳にも、もれなく書かれているといえます。しかし、原文のrecommend an Intel or compatible CPU-based computerを日本語訳でも述部に置いて、それ以外の修飾語を前に持ってくるというやり方は適切でしょうか。

これはWebサイトのFAQのページに書かれている文章ですが、もし、コールセンターへの問い合わせで「システム要件を教えてください」と質問されたら、口頭でどう答えるでしょうか。メモリよりプロセッサが先じゃないかなあ。たとえば「SDL Trados Studio 2019は、Microsoft Windows 7Windows 8.1Windows 10で動作します。コンピュータの最小要件は、Intel製または互換性のあるCPUとメモリ8 GB、モニタ解像度1024x768となっています。」のように。

私がいる業界ではよく、翻訳の品質が数値化されますが、エラーやその重大度の判断基準を見ても、情報を伝える順序についてはあまり重視されていないように思います。「読みやすさ」に含まれているのだろうか。

 

以上のことを書いてから、英語版のページをもう一度見てみたら、次のFor optimum performanceで始まるセンテンスはOSの次にメモリサイズ、ディスクドライブ、CPUの順に述べているんですね。これに合わせたのか……?

For optimum performance, we recommend a 64-bit operating system, 16 GB RAM, an SSD drive and a recent Intel or compatible CPU. Full support for 4K hi-resolution screens is planned and will be implemented incrementally in future releases. You can find more information on how to deal with display issues in this Knowledge Base (KB) article or by running an application from the SDL AppStore which implements a fix, mentioned in the KB article. 

 そして、自分が3年前にも取り上げていたことを「関連記事」で思い出しました。当時はメモリが2GBあればよかったようです。

jacquelinet.hatenablog.com