IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

個人翻訳者にとって用語集とは

先日取り上げた「Trados Studio 2026リリースの最新情報」のページからリンクしているブログにも、Trados 2026についての情報があります。

www.trados.com

このページには4つの項があり、Trados 2026の最新情報のページの箇条書き4項目と対応しているようです。その中の、「用語集を正確かつ強力に管理」という項の最初の段落には、次のように書かれています。

用語集は高品質な翻訳の基盤となります。そして、企業ブランドのメッセージを守る鍵であり、LSPにとっての価値提案であり、個人翻訳者にとって真のプロ意識の証です。Trados Studio 2026リリースでは、用語集ワークフロー全体が改善され、より強力かつ直感的に使用できるようになります。ここで、Trados Termbase(.TTB)についてご紹介しましょう。これは、用語認識の正確性と信頼性をさらに高めるために構築された、最新のローカル用語データベース形式です。  

「用語集は高品質な翻訳の基盤となります。」はわかるのですが、「個人翻訳者にとって真のプロ意識の証です。」とは。私は20年以上この仕事をしていますが、用語集についてこのような意識を持ったことはありませんでした。プロではないということでしょうか。

英語版では、次のように書かれています。

www.trados.com

Master terminology with precision and power
Terminology is the bedrock of quality translation, the key to protecting a corporate brand voice, a value proposition for LSPs, and a mark of true professionalism for freelance professionals. Studio 2026 Release will refine the entire terminology workflow, making it more powerful and intuitive. We will be introducing Trados Termbase (.TTB), a new, modernized local termbase format built for more accurate and reliable term recognition.  

やはりterminologyが「用語集」と訳されているようです。Tradosという製品のterminologyにおいてterminologyという用語の日本語訳が「用語集」と規定されているとしたら、その訳で統一するのは翻訳者として当然ですが、ではその訳が自分の担当の文脈には当てはまらないとしたら?発注元(=用語集を作った人)に対しては「用語集の訳を守った」ということで自分の仕事を果たしたことになるのですが、読者に誤解を与えてしまったら、その責任は誰にあるのでしょうか。

次の段落も見てみます。

こうした機能強化により、個人翻訳者はプロジェクト固有の用語を簡単に維持できるようになります。企業やLSPの場合、この改善はサーバー環境とクラウド環境全体に適用されます。用語管理のための新しいREST APIにより、ビジネスシステムとのより深く柔軟な統合が可能になります。また、用語追加のためのワークフローの強化と禁止用語のよりスマートな処理により、クラウド上で作業する大規模な分散チームの連携を妨げる障壁がなくなります。  

 

These enhancements will make it effortless for freelance translators to maintain project-specific terminology. For corporations and LSPs, the improvements will scale across server and cloud environments. A new REST API for terminology will enable deeper, more flexible integrations with your business systems, while an enhanced workflow for adding terms and smarter handling of forbidden terms will remove collaborative barriers for large, distributed teams working in the cloud.  

「個人翻訳者はプロジェクト固有の用語を簡単に維持できる」は、意味がよくわかりませんが、ここではterminologyが「用語」なんですね。プロジェクト固有の用語の使い方を守るための労力が減るということでしょうか。その後のA new REST API for terminologyのterminologyの訳は「用語管理」なんですね。改めて項の見出しを見るとMaster terminology with precision and powerが「用語集を正確かつ強力に管理」ですが、「用語集を強力に管理する」とは一体何を指しているのか、長いことこの仕事をしていますが、よくわかりません。

Tradosにとってterminologyとは

ついこの間、Trados Studioを2024にアップグレードしたと思ったらもう2026の案内が来て、その料金体系を見てびっくりしているところですが、そんなにすごいソフトウェアになるのでしょうか。2024にも残っている、致命的なバグが解消されているといいのですが。
具体的に何が変わるのかは、最新情報のページに書かれているように大きく4つに分けられるようです。

www.trados.com

www.trados.com

その2番目の「用語集の精度向上」は、英語版ではTerminology perfectedですが、具体的にどういうことなのでしょうか。

用語集の精度向上

強化された用語集ツールにより、完全な一貫性を確保することが可能になります。用語認識の精度が向上し、作業中の新規用語追加や管理もよりスムーズになります。これにより、すべてのプロジェクトで最高の品質を維持し、より正確な翻訳とクライアントの満足度向上を実現できます。

Terminology perfected

You will be able to deliver perfect consistency with our enhanced terminology tools. You will enjoy more accurate term recognition and a streamlined workflow for adding and managing new terms as you work. This will ensure you maintain the highest quality across every project, resulting in clearer translations and more satisfied clients.

「により」という、個人的NGフレーズが2回も出現して読むのが辛いのですが、これが「用語集の精度向上」なのでしょうか。だったら今までの用語集は何だったのでしょうか。確かに、英英辞典でterminologyという単語を調べるとthe technical words or expressions that are used in a particular subjectロングマン現代英英辞典)とありますので、words or expressionsの集合=用語集なのかもしれませんが、that are used in a particular subjectの部分も大事です。つまり、単に用語を集めるのではなく、その分野における適切な用語を使うことを指しているはずです。ですので、そのことをふまえてTerminology perfectedという見出しをうまく訳した結果を見せてほしかったと思います。

後ろから訳す理由

Appleも最近、大きなイベントでいろいろ発表をしたとのことで、それに関するニュースリリースが公開されていますが、気になるところがありましたので記録しておきます。

www.apple.com

このページの最初の段落です。

Appleは本日、Worldwide Developers Conferenceにおいて、次世代のApple Intelligenceを提供し、より一層賢く、豊富な知識を持ち、有能な、まったく新しいバージョンのSiriであるSiri AIを導入する、今後リリース予定のソフトウェアをプレビューしました。このリリースでは、保護者が子どものために安全なデジタル体験を作り出すのに役立つパワフルで直感的な新機能も提供します。また、iOS 27、iPadOS 27、macOS 27、watchOS 27、visionOS 27、tvOS 27にわたってApple製品をさらに反応良く、楽しく、使いやすいものにしながら、Apple製品のソフトウェアデザインとパフォーマンスをさらに進化させる機能強化も導入します。

最初の1文「Appleは本日、Worldwide Developers Conferenceにおいて、次世代のApple Intelligenceを提供し、より一層賢く、豊富な知識を持ち、有能な、まったく新しいバージョンのSiriであるSiri AIを導入する、今後リリース予定のソフトウェアをプレビューしました。」は、ずいぶん長いですね。

英語版では次のように書かれています。

www.apple.com

Today, during the Worldwide Developers Conference, Apple previewed its upcoming software releases that will deliver the next generation of Apple Intelligence and introduce Siri AI, an entirely new version of Siri that is profoundly more intelligent, knowledgeable, and capable. The releases also bring powerful and intuitive new features to help parents create safe digital experiences for kids, as well as improvements that further elevate the software design and performance of Apple products while making them more responsive, delightful, and easier to use with iOS 27, iPadOS 27, macOS 27, watchOS 27, visionOS 27, and tvOS 27. 

確かに元の英語版でも、最初のセンテンスはToday, during the Worldwide Developers Conference, Apple previewed its upcoming software releases that will deliver the next generation of Apple Intelligence and introduce Siri AI, an entirely new version of Siri that is profoundly more intelligent, knowledgeable, and capable. とかなり長いのですが、よくありがちな「後ろから」訳す方法でなんとか1文にまとめたという感じです。このようなやり方は、今でも人間翻訳の主流なのでしょうか?

この段落の意味をChatGPTに尋ねたら、次のような回答がありました。

この英文は、Appleの発表文のような書き方で、全体としては次のような意味です。

「本日、Worldwide Developers Conference(WWDC:世界開発者会議)で、Appleは今後リリース予定のソフトウェアを披露しました。これらのソフトウェアでは、次世代のApple Intelligenceが提供され、さらに“Siri AI”という、まったく新しいSiriが導入されます。この新しいSiriは、従来よりもはるかに賢く、知識が豊富で、できることも大幅に増えています。また、これらのリリースには、保護者が子どもにとって安全なデジタル体験を作れるようにする、強力で直感的な新機能も含まれています。さらに、iOS 27、iPadOS 27、macOS 27、watchOS 27、visionOS 27、tvOS 27では、Apple製品のソフトウェアデザインや性能がさらに向上し、反応がよく、使っていて楽しく、より使いやすいものになります。」

少し自然な日本語にすると、次のようになります。

AppleはWWDCで、今後提供予定の各種ソフトウェアを先行公開しました。これらのソフトウェアでは、Apple Intelligenceが次世代へ進化し、従来よりも大幅に賢く、知識が豊富で、多機能になった新しいSiri「Siri AI」が導入されます。また、子どもが安全にデジタル機器を使えるよう、保護者向けの強力で使いやすい新機能も追加されます。さらに、iOS 27、iPadOS 27、macOS 27、watchOS 27、visionOS 27、tvOS 27を通じて、Apple製品のデザインや性能がさらに洗練され、より反応がよく、快適で、使いやすい体験が提供されます。

つまりこの英文の読み方としては、Today, during the Worldwide Developers Conference, Apple previewed its upcoming software releasesがテーマであり、それに続く部分はその詳細の説明ということになります。それに対して日本語版では、「Appleは本日、Worldwide Developers Conferenceにおいて、次世代のApple Intelligenceを提供し、」で始まっていますので、本来のテーマがよくわからなくなってしまっています。このページのメタデータが「Appleは本日、次世代のApple Intelligenceを提供し、Siri AIを導入する、今後リリース予定のソフトウェアをプレビューしました。」ですので、ページ本体でも最初にこの部分を提示したほうがよいと思います。

ついでにGoogle翻訳にも、この英文をそのまま投入してみました。

本日、世界開発者会議(WWDC)において、Appleは次世代のApple Intelligenceを実現する次期ソフトウェアリリースをプレビュー公開しました。このリリースでは、Siri AIが導入されます。Siri AIは、これまで以上に高度な知能、知識、そして能力を備えた、まったく新しいバージョンのSiriです。また、保護者が子供のために安全なデジタル体験を作り出すのに役立つ、強力で直感的な新機能も搭載されています。さらに、iOS 27、iPadOS 27、macOS 27、watchOS 27、visionOS 27、tvOS 27では、Apple製品のソフトウェア設計とパフォーマンスがさらに向上し、より応答性が高く、快適で、使いやすくなっています。

機械翻訳ですら、「プレビュー公開しました。」でいったん切っていますよね。こうして文をぶつ切りにするのは稚拙に見えるのかもしれませんが、格調高く見えても意味不明な文章よりはよいと思います。読み手は文章を味わいたくて読むわけではありませんので。

関係代名詞that

news.adobe.com

blogs.nvidia.co.jp

news.adobe.com

引き続き、AdobeとNVIDIAが提携するというニュースリリースの両社の日本語訳を取り上げます。提携して具体的に何をするのかは、このニュースリリース本文に書かれているのですが、全体を読む時間がない人のために冒頭にsummaryとして箇条書きでまとめられています。その4つある箇条書き項目の最初の項目を見てみます。

Adobe日本語版:

アドビは、NVIDIAの高度なコンピューティング技術とライブラリを活用することで、クリエイティブ/マーケティングパイプラインにおいて業界最高水準の精度とコントロールを備えた次世代のAdobe Firefly基盤モデルを提供

NVIDIA日本語版:

Adobe は、NVIDIA の高度なコンピューティング技術とライブラリを活用して、創造性とマーケティング パイプラインにクラス最高の精度と制御を提供する次世代の基盤型 Adobe Firefly モデルを提供

Adobeが次世代のAdobe FireflyモデルにNVIDIAの技術とライブラリを使用することはわかりましたが、その間のパイプラインとか精度とかはなんのことでしょうか。
英語版を見てみます。

Adobe will use NVIDIA’s advanced computing technology and libraries to deliver the next generation of foundational Adobe Firefly models that offer best-in-class precision and control for creativity and marketing pipelines.

Copilotにこの英文の意味を尋ねてみたところ、次の回答がありました。

要点:  
この文が言っているのは、Adobe が NVIDIA の高度な計算技術(GPU・AIライブラリ)を使って、Firefly の次世代AIモデルを作り、より高精度で細かく制御できるクリエイティブ/マーケティング向け生成AIを提供するという意味です。

その後に「文の意味をわかりやすく分解」という見出しに続いて、この文を4つの部分に分けて解説してくれました。

  1. Adobe will use NVIDIA’s advanced computing technology and libraries
  2. to deliver the next generation of foundational Adobe Firefly models
  3. that offer best-in-class precision and control
  4. for creativity and marketing pipelines

その後に、次のようにまとめています。

Adobe は NVIDIA の最先端AI技術を取り込み、Firefly をさらに高性能化し、クリエイターやマーケターがより正確で思い通りにコントロールできる生成AIを提供する。

Firefly が「より賢く・速く・精密に」進化するための技術基盤として NVIDIA を採用する、という宣言です。

この英文は「Adobeが自社の製品(Fireflyのモデル)にNVIDIAの技術を取り入れること」と「そのねらい」の2つの部分ら成るのですが、両社とも、that offer以下で述べている「ねらい」の部分を日本語訳ではAdobe Firefly modelsの修飾部として前に持って来てしまっているので、文の構成がわかりにくくなってしまっているような気がします。関係代名詞の制限用法だからといってそう訳さないといけないと決まっているわけではないので、伝えたいことが伝わるかどうかを優先したほうがよいと思います。

ついでに、creativity and marketing pipelinesは具体的にどのようなことを指しているかをCopilotに尋ねたところ、次の回答がありました。

“creativity and marketing pipelines” は、クリエイティブ制作の工程 と マーケティング素材を作って配信する一連の業務フロー を指します。
Adobe Firefly が使われる 具体的な現場の流れ(パイプライン) のことです。

 

ニュースリリースのタイトルの訳し方

AdobeとNVIDIAが提携を発表したというニュースリリースが両社から同じ文面で出されており、その日本語訳が両社それぞれから出されているという興味深い事例を見つけたので記録しておきます。

news.adobe.com

nvidianews.nvidia.com

news.adobe.com

blogs.nvidia.co.jp

まずは見出しからです。

英語版(両社とも同じ):

Adobe and NVIDIA Announce Strategic Partnership to Deliver the Next Generation of Firefly Models and Creative, Marketing and Agentic Workflows

Adobeの日本語版:

アドビとNVIDIA、次世代のAdobe Fireflyモデルおよびクリエイティブ/マーケティング/エージェントワークフローの提供に向けた戦略的提携を発表

NVIDIAの日本語版:

Adobe と NVIDIA は、次世代の Firefly モデルとクリエイティブ、マーケティング、エージェント型ワークフローを提供するための戦略的パートナーシップを発表しました

訳し方は基本的に同じですね。元の英文はAdobe and NVIDIA Announce Strategic Partnershipto Deliver the Next Generation of Firefly Models and Creative, Marketing and Agentic Workflowsの2つの部分に分けられますが、日本語訳ではto以下をpartnershipを修飾するものと解釈して前に持ってくるのが一般的であり、両社ともそのやり方を取っているようです。文のスタイルはかなり違いがあり、NVIDIAのほうはブログとして発表しているのでこうなったのかと想像されます。Creative, Marketing and Agenticという3種類のworkflowsの表現とpartnershipの訳し方も違いますが、翻訳の正解は一つということはないので、どちらが正しいかなどと言うつもりはありません。

ただ、見出しの長さを考えると、この一般的な和訳の方法のままでよいかどうかという疑問が生じます。なぜなら、見出しは他の場所で参照されることがあり、そのときに全体が表示されるとは限らないからです。このブログの冒頭で使ったブログカードでもそうですが、ページの見出しは「アドビとNVIDIA、次世代のAdobe Fireflyモデルおよびクリエイティブ/マーケティング/…」や「Adobe と NVIDIA は、次世代の Firefly モデルとクリエイティブ、マーケティング、エージ…」のように途中までしか表示されないことがあります。肝心のAnnounce Strategic Partnershipの部分に対応する日本語訳が表示されないのです。

リンクをクリックすればリンク先のページで全体を読めるからいいだろうという考え方もありますが、「アドビとNVIDIA、次世代のAdobe Fireflyモデルおよびクリエイティブ/マーケティング/…」だけを見て詳しく知りたいと思いますか? 英文を構成する各部分は読み手に伝えたい順序で提示されていることを考えると、日本語に訳すときも同じ順序で「アドビとNVIDIAが戦略的提携を発表」を前に持ってくるのが筋だと思います。ただ、そのようにするには原文にない要素を足したりすることになるので、それが嫌がられるというのは想像できます。

参考までに、この発表を取り上げているWebニュースを探してみました。

dc.watch.impress.co.jp

 

videosalon.jp

 

robotstart.info

 

gigazine.net

 

plus-web3.com

 

やはり、真っ先に伝えたいことは両社の提携ですよね。

 

 

「工場などの空間」とは

「など」の使い方の興味深い例を見つけたので記録しておきます。フィジカルAIのトレーニングを実際の物理的な環境で行う代わりにその環境をシミュレーションする合成データを作るというテーマの文章のようです。

www.nvidia.com

フィジカル AI モデルのトレーニングには、現実世界の空間的関係や物理的なルールに関する、大規模かつ多様で物理的に正確なデータが必要です。現実の環境でこのデータを収集することは、手間がかかり、エラーが生じやすく、危険であり、コストも高くなります。シミュレーションと世界基盤モデル(WFMs)を組み合わせることで、フィジカルAIモデルのトレーニング用合成データの作成を大幅に促進できます。

データ生成は、まず工場などの空間のデジタル ツインの作成から始まります。現実世界のセンサーデータは、3D ガウスベースの再構築を用いてインタラクティブなシミュレーションに直接取り込むこともできます。この仮想空間で、センサーやロボットなどの自律マシンが追加されます。現実世界のシナリオを模倣するシミュレーションが実行され、センサーは動きや衝突などの剛体力学や、環境における光の影響など、さまざまな相互作用を取り込みます。生成されたデータはその後、WFMs によって拡張、キュレーション、注釈付けされます。

2番目の段落の「データ生成は、まず工場などの空間のデジタル ツインの作成から始まります。」の「工場などの空間」は、どう解釈すべきでしょうか。「空間」を「何もないところ」と解釈すると、「工場などの空間」は、「工場などの中の何もないところ」となります。工場で働く人々が始業前に体操できる、空いた場所とか?

英語版も見てみます。

www.nvidia.com

Training physical AI models requires large, diverse, and physically accurate data about the spatial relationships and physical rules of the real world. Collecting this data in real-world settings can be tedious, error-prone, dangerous, and expensive. The combined use of simulation and world foundation models (WFMs) can supercharge the creation of synthetic data for training physical AI models. 

Data generation starts with the creation of a digital twin of a space, such as a factory. Real-world sensor data can also be brought directly into interactive simulations using 3D Gaussian-based reconstruction. In this virtual space, sensors and autonomous machines like robots are added. Simulations that mimic real-world scenarios are performed, and the sensors capture various interactions like rigid body dynamics—such as movement and collisions—or how light interacts in an environment. The generated data can then be augmented, curated, and annotated with WFMs.

英語版ではData generation starts with the creation of a digital twin of a space, such as a factory.と書かれています。a spaceの例がa factoryということですね。これと同じことを「工場などの空間」という日本語のフレーズで表現できているのでしょうか?英語のspaceにも「何もない場所」という意味はありますが、その他に「何かの目的で使われる場所」という意味もあるので、このa spaceの定義をsuch as a factoryという具体例で明確にしているのだと思います。しかし「工場などの」という書き方をすると、工場ありきになってしまい、他のものがあまり想像できなくなってしまいますが、実際には倉庫、オフィス、病院、あるいは自動車が走る場所など、いくらでもあるはずです。ここで取り上げた文では、a spaceというフレーズを読んだ人に「ある有限の空間のことだな」と思わせるのが重要だと思うのですが、日本語の「工場などの空間」だと、それが難しいように思われます。

同じ段落に、他にも「など」が使われているセンテンスがあります。

現実世界のシナリオを模倣するシミュレーションが実行され、センサーは動きや衝突などの剛体力学や、環境における光の影響など、さまざまな相互作用を取り込みます。

どこからどこまでが何の例なのか、よくわからないのですっきりしません。「現実世界のシナリオを模倣するシミュレーションが実行されるとセンサーが物の動きや衝突や、その環境での光の影響をとらえる」というのがこの文の主旨なので、細かいことは気にする必要はないかもしれませんが、最後の「さまざまな相互作用」が結局何のことだかよくわかりません。

英文では次のように書かれています。

Simulations that mimic real-world scenarios are performed, and the sensors capture various interactions like rigid body dynamics—such as movement and collisions—or how light interacts in an environment.

このセンテンスの主旨は前半のSimulations that mimic real-world scenarios are performed, and the sensors capture various interactionsであり、読者はここまで読んだだけでもある程度主旨を理解できると思います。現実世界のシナリオのシミュレーションをすれば、いろいろなinteractionsが起きるのは想像できるからです。その具体例としてrigid body dynamicshow light interacts in an environmentが付加されており、前者の補足としてsuch as movement and collisionsが挿入されているというわけですね。ですので、日本語に訳すときも英文と同じ順序で「シミュレーションが実行され、センサーがさまざまな相互作用を捉えます。たとえば剛体力学(動きや衝突など)や特定の環境における光の相互作用など」と表現するとわかりやすいかと思います。「最初から日本語で書かれたようなこなれた文章」を重視するレビュアー様には拒否されそうですが、この種の新しい概念を解説する文章の場合は内容の正確な理解のほうが重要だと思います。

もう一つ、「この仮想空間で、センサーやロボットなどの自律マシンが追加されます。」もさらっと読めますが、意味を考えるとちょっと怪しいように思われます。追加されるのは何と何でしょうか?センサーは自律マシンですか?英文ではIn this virtual space, sensors and autonomous machines like robots are added.ですので、追加されるのはセンサーと自律マシンで、後者の例がロボットということになります。

ちなみに、Data generation starts with...の段落全体をChatGPTに渡して意味を教えてくださいと頼んでみたところ、次のような答えが返ってきました。

日本語にすると、だいたい次の意味です。

データ生成は、工場などの空間のデジタルツインを作るところから始まります。現実世界のセンサーデータも、3D Gaussian ベースの再構成技術を使って、インタラクティブなシミュレーションへ直接取り込むことができます。この仮想空間の中に、センサーやロボットのような自律機械を追加します。そして、現実世界の状況をまねたシミュレーションを行い、センサーがさまざまな相互作用を記録します。たとえば、物体の動きや衝突などの剛体力学、あるいは環境内で光がどのように反射・屈折・照射するかといった相互作用です。生成されたデータは、その後、WFM によって拡張、整理、注釈付けされます。

「工場などの空間」と「センサーやロボットのような自律機械」は最初に引用したWebページと同じですが、相互作用の例のところはセンテンスが分けられていますね。

「主要な結果」という日本語のフレーズは通じるのか

先日のブログ(goalとobjectiveの訳し分けが必要な例 - IT翻訳者の疑問)で引用したAsanaというソフトウェアの説明文の中で、もう一つ気になることがあります。

asana.com

Categorize your goal as an objective, key result, or individual goal—or use a goal template to get a head start. 

 

asana.com

「目標」「主要な結果」「個人の目標」を設定しましょう。また、目標テンプレートを活用して効率よく開始することもできます。

 

「主要な結果」というのは英語のkey resultのことですが、この日本語のフレーズの意味は誰が読んでも理解できるのでしょうか。英語版のas an objective, key result, or individual goalという並びを見るとOKRのKRのことだなと想像がつきますが(このページのメタデータにも See how goals and OKRS can get everyone on the same page.という記述があります)、日本語の「主要な結果」は key resultと結びついているのでしょうか? Objectives and Key Resultsの日本語訳は「目標と主要な結果」あるいは「目標と主要な成果」あたりで定着しているようですが、実際にOKRを運用している人にとって「主要な結果」は違和感なく使える言葉なのでしょうか。このkeyの意味は「主要」でよいのでしょうか。KPI(Key Performance Indicator)は一般的に「重要業績評価指標」と呼ばれているのですが。

英語のkey resultsに対して「キーリザルト」というカタカナ語が使われている事例は、Webで検索したかぎりではあまり見つかりませんが、OKRという文脈での専門用語としてはこちらのほうが理解しやすいような気もします。カタカナ語警察にどう思われるかはともかくとして。

schoo.jp

OKRとは、「Objectives and Key Results」の頭文字を取ったもので、Objectives(目標)とKey Results(主要な成果)を設定し、より高い目標を達成するためのフレームワークです。組織やチームが具体的な目標(Objectives)を設定し、それに対してキーリザルト(Key Results)を定量的な指標で設定します。メリットとしては、明確な目標設定により、組織やチームの方向性を共有し、全員が一体となって取り組むことができます。キーリザルトは数値化されるため、目標達成の進捗や結果を定量的に評価できます。また、OKRは柔軟性があり、周期的なレビューや進捗の追跡を通じて、フレキシブルな目標の調整や修正ができます。

 

ちなみにAsanaのOKRテンプレートのページでは、KRという頭字語も使われているようです。

asana.com

名前の通り、OKR には「目標 (Objectives)」と「主要な結果 (Key Results)」という 2 つの重要な要素があります。テンプレートには、目指している大きな目標と、その進捗を追跡するための測定できる主要な結果、この両方の要素のスペースが必要です。

また、1 つの目標に対して主要な結果が複数ある場合もあるため、それらをすべてテンプレート内に記録し、対応する目標下に整理しておくのがおすすめです。目標ごとにセクションを作成し、各セクションにそれぞれの目標の主要な結果となるマイルストーンを追加することで整理できます。

次に、各 KR (主要な結果) の状況と達成度を簡単に確認する方法が必要です。そのために、まずはカスタムタグを 2 つ追加します。一つはステータスを追跡するタグ (順調、リスクあり、アーカイブ済みなど)、もう一つは達成度を示すパーセンテージのタグです。そして最後に期間のカスタムタグを追加して、いつまでの目標達成を目指すのか明確にします。

さらに各 KR タスクを開いてタスク詳細に指示を追加することで、より詳細なテンプレートが作成できます。そうすることでチームは主要な結果を決定したり作成したりする際に、決められたルールに従うことができます。