違和感のある「たりたり」の例

support.google.comこのヘルプ記事の最初の文です。

ネットワークを設定して Google Meet の使用を開始した後、音声と動画の品質を改善したり会議に接続したりするには、次の情報を確認します。

「音声と動画の品質を改善したり会議に接続したりする」に違和感があります。

「たりたり」は動作を列挙するときにいつでも使えるのでしょうか。いくつもの動作の中から例を挙げるとき、あるいは2つの動作を交互に行うことを表すときに使うものですよね。でも「音声と動画の品質を改善する」と「会議に接続する」が交互に行われるとは考えにくい。この2つの動作は同類とはいえないからです。では例を挙げているのかというと、「Google Meet の使用を開始した後」に行うことの代表例がこの2つというのもなんだか不自然です。

英語版を見てみましょう。

support.google.com

After you set up your network and start using Google Meet, use the following information to help with audio and video quality and connecting to meetings.

「to help with」を逐語訳できないので「品質を改善したり」と「改善」を補ってみたと推測されます。しかし、このトピックの本体に当たる部分には「Troubleshoot audio and video quality」と「Troubleshoot connecting to Meet」なので、「音声と動画の質や会議への接続について問題が発生した場合は、次に示す情報をご利用ください」とでもすればよかったのではと思います。

Single version of truthとは

同じデータをあちこちに複製せずに1つだけ持つことを表す言葉ですが、日本語でどう表現すればよいのでしょうか。何年か前に「単一バージョンの真実」と(かぎかっこも付けて)訳したら、どこかのレビュアーに「直訳すぎ」というフィードバックとともに全く違う意味の表現に変えられたという出来事を思い出しました。自分が知らない言葉だからといって切り捨てないで、ググるぐらいのことはしてほしいものです。

en.wikipedia.org

「ショット別に写真を分割」とは

引き続き、エンドユーザーとしてAdobe Lightroom Classicのマニュアルを読んでいます。

helpx.adobe.com
(カメラをパソコンに接続した状態で撮影して画像を直接Lightroomに取り込むという機能を使う機会は、今のところありませんが)

この中で気になるのは、テザー撮影の設定ダイアログボックス(Adobeのページでは「テザー撮影の設定」が太字)にある「ショット別に写真を分割」という機能です。

 セッション

セッションとは、撮影した写真を保存するフォルダーの名前です。「ショット別に写真を分割」を選択すると、セッション内にサブフォルダーが作成されます。「OK」をクリックした後でサブフォルダーの名前を指定できます。

 ショットとは何か。写真はどう分割されるのか。ここでこのオプションを選択しておくと、実際に撮影するときに

ショット別に写真を分割する場合は、Ctrl + Shift + T キー(Windows)または Command + Shift + T キー(macOS)を押して、新しいショットを作成します。現在の撮影の名前をクリックして新しい撮影名を入力することもできます。

という操作ができるようです。
このヘルプトピックの英語版を見てみます。

helpx.adobe.com

テザー撮影の設定ダイアログボックス(Tethered Capture Settings dialog box)での設定の説明は、次のように書かれています。

Session

The session is the name of the folder that stores the captured photos. Select Segment Photos By Shots to create subfolders within the session. You can name the subfolders after clicking OK.

そして、撮影時の説明は次のように書かれています。

If you are segmenting photos by shots, press Ctrl+Shift+T (Windows) or Command+Shift+T (macOS) to create a new shot. You could also click the current shot name and enter a new shot name.

「ショット別に写真を分割」という日本語を読んでイメージしたのは1枚の写真を分割することでしたが、英語では「Segment Photos By Shots」でした。つまり一連のphotosをshotごとに分けてサブフォルダーに保存するということですね。確かにsegmentという動詞の語義として「分割する」を載せている英和辞典もありますが、この機能を表す訳語としてはふさわしくなかったかと思います。
日本語では名詞が単数か複数かをはっきりさせないことが多いのですが、単数と複数で意味が変わってしまう場合はそのことを意識して訳文に反映することが必要かと思います。

Adobeの独特な日本語マニュアル表記スタイル

カメラで撮影した写真を編集してみたくなったので、Adobe Lightroom Classicをインストールしてみました。直感的に使えないこともないのですが、UI項目名を見ただけではどういう機能かわからないものも多いので、ユーザーガイドを読んで勉強することにしました。
カメラからPCのディスクにコピーした画像をLightroom Classicで扱うには、まず読み込む必要があるようですが、その手順の説明は 

helpx.adobe.com

にあります。
手順の最初のステップは、次のように書かれています。

次のいずれかの操作を行って、読み込みウィンドウを開きます。

  • ライブラリモジュールの左下隅にある「読み込み」ボタンをクリックします。
  • メインメニューから、ファイル/写真とビデオを読み込みを選択します。
  • エクスプローラー(Windows)または Finder(Mac OS)からフォルダーまたは個別のファイルをグリッド表示にドラッグし、手順 2 をスキップします。

 翻訳もののマニュアルでGUIの操作方法を説明するときの表記スタイルは、どこの企業のものでもそう大きな違いはないと思っていたのですが(Windows用だったらMSスタイルをベースにしているので)、Adobeは独特なところがあります。2番目の選択肢「メインメニューから、ファイル/写真とビデオを読み込みを選択します。」の意味は、メインメニューの「ファイル」をクリックし、その下に現れる項目の1つである「写真とビデオを読み込み」をクリックするということなのですが、ボタン名はかぎかっこで囲むのにメニュー項目はかっこ無しというスタイルはなかなかユニークです。「ファイル/写真とビデオを読み込み」がメニューパスであることが分かりにくいという苦情は今までなかったのでしょうか。

2つの名詞を列挙するときの読点の使い方

support.google.com

support.google.com

英語での見出しに動詞が2つあるときの訳し方はいろいろありますが、「~を行う」というスタイルを使うと決めたのなら、なぜ「開始または参加を」にしなかったのでしょうか。あるいは「Gmailからビデオ通話を開始する、または参加する」ではいけなかったのでしょうか(厳密には「Gmailからビデオ通話を開始する、またはビデオ通話に参加する」ですが)。

この「開始、参加」のように2つの名詞を読点でつなぐという表記を時々見かけるのですが、どういう理由でそうしているのかが気になります。もしかしてスタイルガイドで指示されているのでしょうか。だとしたら面倒ですね。

 

違和感のある「したりできます」

違和感の理由の説明はまだうまくできないのですが、Webで検索して見つかったものを貼り付けておきます。

www.google.com

このページを開くとまず「クラウド プリント」という見出しが目に入ります。これがこのページの主題ですね。そのすぐ下の行には、少し小さい文字で「あらゆるデバイスから、クラウドに接続しているプリンタに印刷できます。 」と書かれていてます。「クラウド プリント」の要約ですね。その下には「アカウントのクラウド プリント ページに移動」というボタンがあって、このサービスを既に使っている人は直接サービスのページに飛べるようになっています。

その下にはイメージ画像(おそらくプリンターからの出力である紙)があり、その下に「どこからでも印刷」「何でも印刷」「プリンタの共有と管理」という3つの見出しが横に並んでいます。おそらく、この「クラウド プリント」の特徴ですね。その一つの「プリンタの共有と管理」の下には次のように書かれています。

Google アカウントを使って、プリンタと印刷ジョブを管理したり、プリンタを安全に共有したりできます。

この文はどう解釈すればいいのか。「管理したり」と「安全に共有したり」は読者に与えられた選択肢なのか。「Google アカウントを使って、プリンタと印刷ジョブを管理したり」の何がすごいのか。

いくら考えてもよくわからないので、英語版のページ(https://www.google.com/intl/en-GB_ALL/cloudprint/learn/)を見てみると、この部分のテキストは次のようになっていました。

Share & manage printers
Manage your printers and printing jobs, and share printers securely from your Google account.

このサービスのすごいところは、manageとshareをsecurely from your Google accountにできるということですよね。「たりたり」を使わなくても、「プリンターと印刷ジョブの管理、およびプリンターの共有をGoogleアカウントから安全に行うことができます」とでも表現できるのではないでしょうか。

日本語教育では「たり」の使い方をどう教えているか

 

日本語文型辞典

日本語文型辞典

 

 この書籍の「たり」の項には、次の4つの文型の説明があります。

1 …たり…たりする

(1) 休みの日には、ビデオを見たり音楽を聞いたりしてのんびり過ごすのが好きです。

いくつかのことがら、行為のうちの代表的なものを二、三あげる表現。ひとつだけ例をあげて、他にもあることを暗示する場合もある。

2 …たり…たり

(1) 何か心配なことでもあるのか、彼は腕組をして廊下を行ったり来たりしている。

ある状態、行為を交互に繰り返すときの様子、あるいはふたつの対照的な状態を表す。

3 …たり したり/しては

(1) 英語での生活にもだいぶん慣れたが、早口で話しかけられたりしたらわからなくて困ることも多い。

ほかにもあるという含みで例をあげる言い方。

4 …たりして

(1) A:変だね。まだだれも来てないよ。B:約束、あしただったりして。

例を1つあげる言い方。他にも可能性があるという含みで、直接はっきり言うことを避けるときなどに使われる。