IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

壁は乗り越えるもの?

Trados Studio 2024のウェビナー案内のメールを読んで、もう一つ気になったのが「壁を乗り越える」というキャッチフレーズです。先日取り上げたhttps://www.trados.com/jp/spotlight/get-ready-for-trados-studio-2024/の、「多様なニーズ」のセクションの見出しにもなっています。

これにはどういう意味が込められているのでしょうか。英語版のページ(https://www.trados.com/spotlight/get-ready-for-trados-studio-2024/)では、この部分は「Bridging borders」です。

英語版のbordersをそのまま「境界」とすると直訳くさいのでひねったのかなと推測しますが、borderと壁は全然違うものです。壁は、外部からの侵入あるいは内部からの脱走を防ぐために人間が作るものです。たとえばアメリカ合衆国は、メキシコとの国境に壁を作りました。Trados Studio 2024にとっての「壁」は誰が作ったのでしょうか? それを「乗り越える」のは誰の動作なのでしょうか?

Trados Studio 2024ではアクセシビリティが向上して、視覚障害者もスクリーンリーダーを使って翻訳作業ができるそうです。つまり、健常者と視覚障害者の間のborderに橋を架けるというのが英語版の主旨ではないでしょうか。もし、健常者と視覚障害者の間に誰かが作った「壁」があるとしたら、それは壊せばいいんです。ベルリンの壁のように。

「壁」という試練はそのままで「乗り越えろ」とは、障害のある人への呼びかけとしては過酷な感じがします。