アピールしたいポイントが見えてこないマーケティング文書

早いもので、もう年末です。翻訳支援ツールのベンダーすら年末キャンペーンを始める時期になりました。ダイレクトメールも製品Webページも、見るといろいろ言いたくなりますが、一つだけ書き留めておきます。

http://www.translationzone.com/jp/translator-products/sdl-trados-studio-freelance/default.asp#tab3

レビューが容易
Studio 2011では、理想的な翻訳の提供を目的とするドキュメントのレビューや他のスタッフとの連携が、これまで以上に簡単に行えるようになりました。 Studioユーザーだけでなく、ファイルをMicrosoft Wordでしかレビューできない、翻訳対象コンテンツに精通している専門家や同僚とも連携できるのです。 注目の機能を一部ご紹介しましょう。

この文章を読んで引っかかりませんか? 「ファイルをMicrosoft Wordでしかレビューできない、翻訳対象コンテンツに精通している専門家や同僚」のところです。「ファイルをMicrosoft Wordでしかレビューできない」とはいったいどんな頑固者なのか。「ファイルをMicrosoft Wordでしかレビューできない」と「翻訳対象コンテンツに精通している」は並列可能なのか。
英語版のページを見ると、次のように書かれています。
http://www.translationzone.com/en/translator-products/sdl-trados-studio-freelance/default.asp#tab3

Review MadeEASY

With Studio 2011 reviewing documents and collaborating with other people to deliver the perfect translation is easier than ever before. Not only is collaboration possible with other Studio users but also with subject matter experts and other colleagues who can review your files simply by using Microsoft Word. Here are some of the highlights:

問題のセンテンスを区切りながら読むと、
Not only is collaboration possible with other Studio users(他のStudioユーザーとの共同作業だけでなく)
but also with subject matter experts and other colleagues who can review your files (翻訳したファイルをレビューしてくれる、その分野の専門家などとの共同作業も可能です)
simply by (その方法は簡単で)
using Microsoft Word.(MS Wordを使うのです)

という、非常にわかりやすい英文なのですが、日本語に訳すとなぜ、ああなってしまうのか。
実は、このような訳文は私のふだんの仕事でもたびたび遭遇します。念のため書いておきますが、ここでtranslationzone.comの文章を取り上げているのは、変な訳の指摘を趣味にしているからではありません。ふだんの仕事で遭遇する、ちょっと困った訳文と同じ傾向が現れているからであり、困らないようにするにはどうすればよいかを考えるために、サンプルとして使わせてもらっています(仕事で遭遇した文章をそのままブログに書くわけにはいきませんので)。
で、なぜ「ファイルをMicrosoft Wordでしかレビューできない、翻訳対象コンテンツに精通している専門家や同僚とも連携できるのです。」という日本語になってしまうかというと、ひとつは英文の主部の動詞を日本語の述語に持ってこようとしているからだと思います。collaboration is possibleのところですね。しかし、英文では初めの方に現れる動詞を、日本語では最後に持ってくるわけですから、無理が生じます。センテンスが短ければあまり問題にはなりませんが、長くなると、英文の最後に重要なことを言っているかもしれないのに、日本語訳ではその部分が埋もれてしまうので、アピールしたいポイントが見えにくくなります。「ファイルをMicrosoft Wordでしかレビューできない、翻訳対象コンテンツに精通している専門家や同僚」のあたりは、「who can review your files simply by using Microsoft Word」をひとまとまりの修飾と解釈した結果でしょうか。「でしか」はどこから来たのでしょう。simplyでしょうか。原文の単語を一つ一つ日本語の単語に置き換えるのが「忠実な訳」という考え方が未だに残っているのでしょうか。
こうやってWebサイトの形になったものを見てみると、いろいろな角度から2011について説明しているので、Not only is collaboration possible...の文章が言おうとしていることもすぐに理解できそうなはずですが、実際の翻訳作業のときはこういう形で原典を参照することはできなかったのかもしれません。ソフトウェアやWebサイトに限らず、最近は書籍のローカライズでもスケジュールが非常にタイトで、「お尻」だけ決まっているのになかなか原稿がフィックスしないということもあるそうですが、どこも大変ですね。