IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

Tradosの言う「翻訳のすべて」とは

先日、Trados Studio 2022 Freelanceアップグレードの最後のチャンスというメールが来ていました。これが本当に最後かどうかはわかりませんが、リンク先のTradosストアを見てみると、先頭のバナー部分に「Tradosなら翻訳のすべてが可能になります」というフレーズがあるのが目にとまりました。この製品のページ(https://www.trados.com/jp/products/trados-studio/freelance/)にも同じフレーズがあるのですが、どういう意味なのでしょうか。

ちなみに、英語版のページではこの部分が「Translate everything with Trados」となっています。

「Tradosを使って何でも翻訳しよう」という逐語訳では面白くないのでひねってみたのか、などと想像していますが、「さらに詳しく見る」をクリックすると詳しい説明を読めるようです。

www.trados.com

www.trados.com

この記事によれば、企業はコンテンツの翻訳先言語を絞っているのが現状だが、そうではなく全世界の人々に言語を問わず最高の顧客体験を届けるしくみを作りたいという理想をTranslate everythingというフレーズで表しているようですね。

そこで、コンテンツや言語の優先順位を決めずに、「すべてを翻訳」することを目指したとしたらどうでしょうか?すべてのコンテンツをあらゆる言語で利用できるようにすることを共通の目標にしたとしたら?すべてのコンテンツを誰もが利用できる世界を想像してみてください。

But what if we stopped triaging content or languages and aimed instead to "translate everything"? What if we made it our collective goal to ensure that every piece of content is available in every language? Just imagine a world where all content is available to everyone:

もちろん、ここで強調されている"translate everything"、「すべてを翻訳する」という理想はTradosという翻訳支援ツールだけで実現できるものではなく、他のテクノロジーや各種サービスの提供企業の協力が必要です。

And this is why we are embracing this goal for Trados. Do we translate everything yet? No we don’t. But starting now, we are setting this goal for ourselves and challenging the rest of the industry to follow suit.  What’s more, we’re committed to creating a platform that enables you to achieve this goal. It’s not enough to support the most popular languages, file formats, or translation processes. It’s definitely too limiting to ask you to use only one technology solution for all your translation needs. Instead we strive to provide a rich ecosystem, full of technology and service providers, unlimited by language or scale requirements, that can help all of us build the right solution to truly translate everything. 
 
We invite you to join us. Translate everything, with Trados.

そこで、その目標をTradosに託しました。今、すべてのコンテンツを翻訳しているでしょうか?いいえ、していません。しかし、今からこの目標を設定し、業界の他の企業に後に続くよう働きかけています。  さらに、この目標を達成するためのプラットフォームの構築にも取り組んでいます。最も普及している言語、ファイル形式、翻訳プロセスをサポートするだけでは不十分です。あらゆる翻訳ニーズに対し、1つのテクノロジーソリューションのみで対応するよう求めるのは、間違いなく制約が厳しすぎます。私たちが目指しているのは、言語や規模の要件の制限がなく、さまざまなテクノロジーやサービスプロバイダが存在する豊かなエコシステムです。それによって、まさにすべてのコンテンツを翻訳するために適切なソリューションを構築できるのです。 

私たちの取り組みに、ぜひ皆様もご参加ください。Tradosとともに、翻訳のすべてを可能にしましょう。

私の仕事はもっぱら英語のコンテンツを日本語に訳すことですが、同じ発注元企業のコンテンツが全部日本語化されているわけではないので確かにtriageされているようです。制約をなくして、あらゆるコンテンツを日本語で読めたら日本人の知識の幅はどれだけ広がるでしょうか。そのような素晴らしい理想を表現する「Translate everything, with Trados.」が、どうして「Tradosとともに、翻訳のすべてを可能にしましょう。」になってしまうのでしょう?

キャッチフレーズとしては「翻訳のすべてを」の方が見た目が良いのでしょう。でも、その意味を説明する文章の中にすんなり収まらないのでは意味がありません。関係するコンテンツ(この例ではWebページとブログ記事)を全部まとめて翻訳し、誰か一人が全部をレビューする体制になっていればこのような不自然さも解消できると思うのですが、現実はそうもいかないのかもしれません。