IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

Visual Studio 2012の日本語ドキュメントが何となく変

調べ物をするためにGoogleで検索していたら、http://msdn.microsoft.com/ja-jp/library/vstudio/ee847415.aspx

依存関係グラフを最初に生成すると、Visual Studio は、検出されたすべての依存関係のコード インデックスを作成します。

という文章がヒットしました。これを見て最初に思ったのは、最近のマイクロソフトは堂々と無生物主語+能動態を使うようになったんだなあということです。人間の操作に応じてソフトウェアがどう動くかを述べるときに「Visual Studioは〜を作成します」と表現するのは、やってはいけないことの筆頭としてスタイルガイドに書かれていたりするものですが、時代が変わったのだろうか。
しかし、他の部分も見てみると、何だか全体的に変です。たとえば、前述の文の段落全体を見てみると

依存関係グラフを最初に生成すると、Visual Studio は、検出されたすべての依存関係のコード インデックスを作成します。 このプロセスにかかることがあります。ただし、多くのリンクを含む大規模なソリューションまたはグラフの時間、特に、インデックス、新しい操作のパフォーマンスが向上します。 コードが後で変更すると、Visual Studio は、更新されたコードだけにインデックスが付け直されます。

などとなっています。他のページでも

http://msdn.microsoft.com/ja-jp/library/vstudio/fda2bad5
ツールのスイートを Visual Studio 2012で使用する、Visual Studio Team Foundation Serverとこれらのツールを組み合わせることによって、理解の顧客ニーズのコード設計および実装に配置することで、アプリケーションのライフ サイクルを管理する認定練習を適用できます。 これらのツールにチェックインされたコード、および条件に基づいてテスト結果を追跡するにはインストルメンテーションを使用できます。 これらの練習は、チームが評価される顧客によってより迅速により、信頼性、ソフトウェアを作成することができます。次の結果を満たすためにこれらのツールを使用できます:

といった調子です。
これはどうみても、日本語ネイティブが書いたものではありませんね? 機械のしわざではないかとにらんでいますが、機械翻訳の免責が見当たりません。こんなのを掲載したままだと企業イメージダウンになりそうですが、大丈夫でしょうか。それどころか、読んでいるほうの頭がおかしくなりそうです。

未だにGoogle多数決

私の専門はIT(information technology)全般ということにしていますが、実際に来る仕事の内容は千差万別です。なかにはやや専門性の高い案件もありますが、先日そのような案件のときに翻訳会社から受け取った指示書に「訳語の選択に迷ったらWebで検索して多い方を云々」と書かれていました。翻訳について指導する立場の人でも、未だにそういう考え方をしているんですね。Googleの検索結果の件数なんて、Googleのキャッシュの中でGoogleの数え方で数えた結果にすぎないので、多いから正しいというものではありませんよね?
たとえば、私が先日ネタにした"あなたがサインアウトしてきました。"をGoogleで検索すると、結果は約328件と表示されます。"あなたがサインアウトしました。"を検索すると、一致する結果はないといわれます。この数字を見て、どちらの表現が適切かを判断する人はいないでしょう。その328件のほとんどは、「あなたがサインアウトしてきました。」いう変な日本語についてあれこれ発言しているページであり、自らこの表現を選んで使っている人はいないと思います。ちなみに、328件のうちかなりの部分が私のブログです。過去の日記であっても、サイドバーに最近の記事タイトルとして「あなたがサインアウトしてきました。」が表示されているので、Googleクローラーが拾ったのでしょうか。

「あなたがサインアウトしてきました。」が修正されていました


それはよいのですが、「Outlookはお気に召したでしょうか。」というメッセージがやけに目立ちます。目立つせいか、「お気に召したでしょうか」という表現が気になります。「召す」は尊敬語ですが、ここで尋ねているのは、自分が差し出したOutlook.comという「物」についての感想ですよね。自分だったら、「気に入っていただけたでしょうか」などとします。
念のため英語版の画面を見ると

ですが、こちらではフィードバックを受け付けるようになっていますね。でも日本語版の画面では、そうではありません。だから、どういう聞き方をしても、聞かれた方は答えようがありませんね。

「あなたがサインアウトしてきました。」

マイクロソフトOutlook.comのサービスを開始したというニュースをあちこちで見かけたので、手持ちのhotmailアドレスでサインインできることを確認してサインアウトしたら「あなたがサインアウトしてきました。」というメッセージが表示されました。

言語設定を英語に変えると「You're signed out.」と表示されるのですが、「してきました」はいったいどこから。これは日本語文字セットを使っているというだけで、日本語ではない言語に思えてきます。どこに丸投げしたんだ?

翻訳会社からのフィードバックがコテコテの逐語訳だった場合

スタイルガイドに「読みやすく訳せ」と書かれているのでいろいろ考えて訳したのに、逐語訳に戻されるとがっくりします。今さらそういうのに合わせたくないので適度に無視してますが、「チェッカ」の人たちは、そういう訳し方が体に染みついてしまってて何とも思わないんでしょうね。お客の好みに合わせるのがプロだと言う人もいますが、そんな逐語訳、だれが好むんだ? 法律や特許とかではなく、市販のソフトウェアの説明書なのですが。

フィードバックの意味

先日の日記で、なぜ妙な手法が流行するかが不思議だと書きましたが、一つ思い当たることがあります。それは翻訳会社(特に二次ベンダー)からのフィードバックです。「このクライアントは自社のことを『弊社』ではなく『我々』と呼ぶ」といった、クライアント独自の表記の指示があればもちろん従いますが、時には翻訳手法にまで踏み込んだ、ちょっとそれには従いたくないよなあと思う“フィードバック”がくることもあります。具体的にどういうのかというと、今までこの日記に書いてきたようなことです。翻訳会社の“チェッカ”は本当にそれでいいと思ってやっているのか。
たぶん、翻訳メモリー(TM)にそういう訳が入っていて、前から使われているのだからそれに合わせようという方針なのだと思います。あと、先日書いたような、中途半端なスタイルガイドの指示を機械的に当てはめたがる翻訳会社も困りものですが、無難に済ませたいという気持ちはわかります。クライアントの機嫌を損ねて仕事がなくなったら困りますし。だからといって、昔からの変な訳し方をいつまでも踏襲するのはどうかと思います。
言ってはなんですが、TMに入ってる訳なんて誰がレビューしたかわかりませんよ。10年ぐらい前ならともかく、今はマニュアルの訳をクライアント企業がフルレビューすることは少ないと思います。レビューしたとしても、その企業の製品のことも英語のことも翻訳のことも知り抜いた人間がクライアント企業内に何人いるか。MLVだってせいぜいサンプルチェックで、あとは二次ベンダーに丸投げしてることも多いのではないでしょうか。日本語を読んだだけで笑ってしまうような訳を放置してるくせに、枝葉末節的なことをあれこれ指摘されると、品質ってなんだっけと考えてしまいます。
そういえば以前、逆にこちらが翻訳会社の立場で、二次請けのベンダー宛てにフィードバックを書いたら、ことごとく「それは好みの問題だ」で済まされたことがあります。一読して意味がわからないのはエラーだと思ったのですが。考えかたも人それぞれですねえ。