IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

〜のように〜ではない

説得できる文章・表現200の鉄則 第3版』の「誤解を招かない文を書こう」の「記述の原則(1) 解釈が1つしかできない文にする」の例として、

1.「〜のように」を否定文で使わない
弟は兄のようにスポーツが得意ではない。

弟は兄と違ってスポーツが得意ではない。
兄も弟も、スポーツが得意でない。

と書かれています。この表現を避ける理由として、

  • 係り受けがあいまいになるので、複数の解釈ができてしまう。
  • 読み手は「〜のように」の後に「〜である」「〜できる」という肯定表現がくると推測する傾向があるが、否定表現がくると推測が逆転してしまうので混乱する。

とあります。たいていの翻訳者はこのことをわかっているので、英日翻訳のレビューの仕事で「〜のように〜ではない」という表現を目にすることはほとんどありません。
何年か前に通っていた翻訳学校のテキストでは、例文で「〜のように〜ではない」という表現が使われていました。先生に質問したところ、読者が特に混乱することはないので問題ない(その文脈では)というようなことを言われました。あまり歯切れのよい回答ではありませんでしたが……。
よくわかる文章表現の技術〈3〉文法編』の「第8講 誤解を招きやすい表現」の「8.6 否定によるあいまい表現」にも、「〜のように」という表現を使うと複数の解釈が成り立つことがあると書かれています。その後に、

もちろん、「ペンギンはダチョウのように空を飛べない」「ペンギンはカモメのように空を飛べない」のような例では、私たちが持っている背景知識から「ダチョウは空を飛べない」「カモメは空を自由に飛べる」ということを読みこんでしまいますので、誤解が生じることはまずありません。

とありますが、「ペンギンやダチョウは空を飛べない」という背景知識があるからこそ、「ペンギンはダチョウのように空を飛べない」という表現を目にすると「著者は一般常識とは違うことを言おうとしているのか?」と不安になるので、読者の解釈にまかせるのはあまり良いことではないと思います。