IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

最後まで読まないとわからない日本語の文章を最後まで読んでもらえるか

Microsoft Azureの「開発者のストーリー」のページを見ていたら、他にもちょっと気になる表現がありました。

開発者のストーリー | Microsoft Azure

南アフリカにおける Azure を使った性暴力対策
Christine と Naomi Bisimwa は、クラウドとモバイルのテクノロジを使用して、南アフリカで横行している性暴力に立ち向かいました。姉妹は GitHub と Azure を使用して、コミュニティの女性や少女に力を与え、自らの人生を自分たちの手に取り戻すことができるようなアプリを作りました。

見出しの「南アフリカにおける Azure を使った性暴力」まで読んでぎょっとしませんか? 最後まで読めば「Azure を使った」は最後の「対策」を修飾していることがわかりますが、なぜ離してしまったのでしょう。こういうWebページは、隅から隅までじっくり読んでもらえるとは限りません。斜め読みして面白そうだったら読む人も多いのではないでしょうか。また、見出しは別のところで引用されるときに文字数の関係で途中までしか表示されないこともあるので、そういう場合でも残りの部分をある程度想像できるような書き方が必要かと思います。

Developer Stories | Microsoft Azure

Combating gender-based violence in South Africa with Azure
Christine and Naomi Bisimwa tackled the rampant effects of gender-based violence in South Africa with the cloud and mobile technology. The sisters used GitHub and Azure to build an app that empowers women and girls in their community to take their lives back into their own hands.

英語ではcombatという動詞が使われていますが、日本語でも「対策」よりは「暴力と戦う」といった強い表現でよいと思います。

本文も、「クラウドとモバイルのテクノロジを使用して」と「立ち向かいました」が離れていますが、既知情報である「南アフリカで横行している性暴力に」を先に述べてから「クラウドとモバイルのテクノロジを使用して立ち向かいました」という新規情報を述べるほうが自然ではないでしょうか。

次のセンテンスも、「アプリを作りました」を述部に持っていくよりも、英文での情報の提示順に合わせて「姉妹がGitHubとAzureを使って開発したアプリは」で始めたほうが、前のセンテンスからのつながりが自然になるかと思います。「姉妹は GitHub と Azure を使用して、コミュニティの女性や少女に力を与え、」まで読んだ時点ではなんのことだかわかりませんよね。姉妹がAzureを使って性暴力に立ち向かったというテーマの文章の締めくくりが「アプリを作りました」だと、ちょっとインパクトに欠けるような気がします。文法的な正確さを優先させた結果でしょうか。

ちなみにこの事例の動画は、下記のページだと字幕付きで視聴できるようです。

https://learn.microsoft.com/en-us/shows/azure-videos/combating-gender-based-violence-in-south-africa-with-azure