IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

「済みます」を使わずに済ませるには

この業界の一部では、「~するだけで済みます」という表現が好まれているらしく、たびたび見かけます。

https://helpx.adobe.com/jp/acrobat/using/pdf-properties-metadata.html

Acrobat の PDF 設定で、文書内の Web リンクのベース URL を設定できます。ベース URL を指定しておくと、他の Web サイトへの Web リンクを簡単に処理できます。例えば、リンク先の URL が変わった場合は、ベース URL を編集するだけで済みます。このサイトを参照する個々の Web リンクを編集する必要はありません。完全な URL アドレスがリンクに含まれている場合は、ベース URL は使用されません。

https://helpx.adobe.com/acrobat/using/pdf-properties-metadata.html

In the PDF settings for Acrobat, you can set a base Uniform Resource Locator (URL) for web links in the document. Specifying a base URL makes it easy for you to manage web links to other websites. If the URL to the other site changes, you can simply edit the base URL and not have to edit each individual web link that refers to that site. The base URL is not used if a link contains a complete URL address.

https://support.apple.com/ja-jp/HT208147

iCloud+ のサブスクリプションを共有する場合、ファミリー共有グループのメンバー全員がそれぞれ自分のアカウントを使います。そうしておけば、サービスへのアクセスを共有しながらも、写真、書類、その他の情報のプライバシーはそれぞれ守ることができます。シンプルに、iCloud+ で利用できる機能や容量を家族で分け合うので、プランをたった 1 つ管理するだけで済みます。

https://support.apple.com/en-us/HT208147

When you share an iCloud+ subscription, everyone in the family group uses their own account. That way your photos, documents, and other information stay private, even though you're sharing access to the service. You simply share the features and space available in iCloud+ with your family members, so you only have one plan to manage.

どうやら、英文でonlyやsimplyが使われているときに「~だけでよい」というニュアンスを反映するために「済みます」が使われるようなのですが、なんだか違和感があります。何が済むのかがわからないからです。

国語辞典で「済む」を調べると、

《多く「︙で済む」の形で》物事がその程度の簡便軽微な事柄で収まる。
【出典: 大修館書店 明鏡国語辞典 第三版】

といった語義があり、確かにその意味で使われているので間違いではないのですが。「何をしないで済むか」を伝える文章なら、「済む」が使われていても違和感はないのではと思います。

最初に引用したAdobeの例文なら、「編集が必要なのはベース URL だけであり、このサイトを参照する個々の Web リンクを編集する必要はありません。」などと書き換えることが考えられますが、原文に「必要」の意味はないなどと言われてしまうのでしょうか。