IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

翻訳対象のセンテンスの文脈を分析するのは翻訳者の仕事ですか?

最近は少し時間の余裕ができたので、改めて基本に戻ってみようと思い、積ん読になっていた参考書を読み返してみたりしています。「良い翻訳とはどういうものか」についてのコンセンサスが、業界内でも取れていないように思えるので、有識者による「翻訳はこうやってするものだ」という解説を求めているのです。

 

 この本は、「翻訳に必要な基本スキルは5つだけ」として、英文を日本語に訳す前に原文分析の重要性を述べているところはとてもよいと思います。でも、そのスキルを具体的に活用する方法の説明に使われている例というのがOptimists can cope more effectively with stress.というセンテンス1つだけです。センテンス1つだけを訳せと言われて訳す気になりますか?  確かに「この英文は、どのような内容の文章からの一節なのか。もう少し詳しい文脈を知りたい。」という「原文分析スキル」の適用の説明にはなっていますが、それって翻訳する人が分析するものなのでしょうか?

なぜ「翻訳」するかといえば、単なる英文解釈ではなく、訳した結果の日本語を何らかの用途で使いたいからですよね。この文章を「翻訳」しようと決めた時点で、その文章は誰に向けたどういう文章かがわかっているはずなので、それを翻訳者が推測するのは本来のやり方ではないと思います。

もっとも、現実問題としては、文脈もよくわからないテキストを「翻訳」しろと言われることはしょっちゅうです。発注元企業から翻訳会社がテキストを受け取って、ろくに分析しないまま翻訳者に発注するからですが。Web上で公開されているドキュメントなら検索で見つけてレイアウトを確認することもできますが、そうではない文書をxml形式でもらっても、どれがどこに表示されるかを推測するのはほんとうに大変です。