IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

evaluate toをどう訳すか

コンピューターに何かをさせるときにIF-THEN-ELSEの条件判定は不可欠なので、これに関する記述はいろいろなIT企業のヘルプドキュメントに出現します。その中で、If the expression evaluates to trueのような英文が「式がtrueに評価された場合は」などと訳されているのをよく見かけますが、この訳し方で通じているでしょうか?

IBMのサイトで例を探してみました。

https://www.ibm.com/support/knowledgecenter/en/ssw_ibm_i_74/cl/dountil.htm

https://www.ibm.com/support/knowledgecenter/ja/ssw_ibm_i_74/cl/dountil.htm

If the logical expression is false (a logical 0), the commands in this Do Until group are processed again for as long as the expression continues to evaluate to false. If the logical expression evaluates to true (a logical 1), control passes to the next command following the associated ENDDO command.

 

論理式が偽(論理0)であれば,式が偽に評価され続ける限りにおいて,このDO UNTILグループ内のコマンドが処理されます。論理式が真(論理1)に評価されると,関連したENDDOコマンドの次のコマンドに制御権が渡されます。  

 「論理式が真に評価される」という表現は、だいたい通じるかと思います。しかし、evaluate toに続くのがtrueあるいはfalseというリテラルでない場合は、少しわかりにくくなるようです。

Googleのサイトで見つけた例です。

https://support.google.com/datastudio/answer/9152828?hl=en

https://support.google.com/datastudio/answer/9152828?hl=ja

All functions expect input, called arguments, that tell the function what data to act upon. Arguments can be field names or expressions. An expression can be a number, literal text, or a statement that evaluates to a field name in your data source. Arguments can also provide additional instructions or formatting information.

 

関数では、実行する処理の対象を指定する「引数」を入力します。引数にはフィールド名か式を使用できます。式としては数値、リテラル テキスト、またはデータソースのフィールド名に評価される文を指定できます。引数によって、追加の指示や書式設定情報を提供することもできます。

「データソースのフィールド名に評価される文」という日本語訳はすんなり理解できるでしょうか。英語のtoという前置詞の性質を考えると、「に」という助詞だけでは表現しきれないと思います。このことを考えるようになったきっかけは、『ケジメのない日本語』という本です。

 

ケジメのない日本語 (もっと知りたい!日本語)

ケジメのない日本語 (もっと知りたい!日本語)

  • 作者:影山 太郎
  • 発売日: 2002/09/10
  • メディア: 単行本
 

 この中で、著者は「The dog swam to the shore.」という例文を挙げて、英語ではtoを使ってswimという行為の到着点を示すと述べています。したがって、この英文の和訳としては、「犬が岸まで泳いだ」よりも「犬が泳いで岸にたどり着いた」のほうが適切です。「犬が岸に泳いだ」は論外です。

この「到達点を示すto」を踏まえると、evaluates to trueは「評価の結果が真となる」、 evaluates to a field nameは「評価の結果がフィールド名の1つとなる」などとしたほうがすんなり理解できるのではないでしょうか。