英日翻訳のときに頭から訳す理由

「頭から訳す」は「訳し下ろす」と言った方がいいのかもしれませんが、いずれにしても、そうするのは情報を提示する順序が原文でも訳文でも同じになるようにするためです。

 

英文翻訳術 (ちくま学芸文庫)

英文翻訳術 (ちくま学芸文庫)

 

 安西徹雄『英文翻訳術』の序章の最初の節「原文の思考の流れを乱すな」にも次のような記述があります。

 文法の枠組に入る前に、まず、すべての前提となる点をいくつか最初に書いておきたい。その第一は、原文の思考の流れを乱すなということ――つまり、もっと具体的にいえば、原文で単語や句の並んでいる順序をできるだけ変えないで、頭から順に訳しおろしてゆくように心がけるということである。

 もちろん、英語と日本語では、文の構成の仕方が根本的にちがうから、英文解釈の原則そのままに訳してゆけば、当然、原文の単語や句の順序を大いに乱して、うしろから前に逆に訳し戻すという結果になってしまう。けれどもこうしたやり方では、非常に具合の悪いことがいくつも出てくる。

 これに続く解説を読むと、英文の動詞をそのまま日本語の述語に持ってくるような直訳では原文の思考の流れが訳文に反映できないことがよくわかります。例文の一部を引用しておきます。

Mishima Yukio used to be fond of saying that Japan and the United States should have another war. It took a war to make Americans interested in Japan, he said, and if there were signs that the interest was lagging, then the time had come for another war.

 「戦争」という一句を連結器にして最初の文から次の文へと思考の流れが受け渡されていく、という著者の解説はとてもよく理解できます。だから「三島由紀夫はかつて、~と語ることを大いに好んでいた」という直訳ではなく、「三島由紀夫が、生前、好んで語っていたことがある。日本とアメリカは、もう一度戦争すべきだ。」と翻訳するのが適切であることも。