IT翻訳者の疑問

この業界に入って約20年。私の疑問は相変わらず解決しません。

ワロン語

アメリアの会報に同封されていた、2月の定例トライアルの講評を見て思ったのですが、Waloon(Walloon)と呼ばれる言語が「フランス語の方言」あるいは「フランス語の一種」だとしたら、これはどの言語を指しているのでしょうか。「どの」というのは、ベルギーのWalloon地域で古くから話されている、フランス語との共通点も多い地域語なのか、Walloon地域の人々が話すフランス語なのか、です。

私は前者だと考えているのですが、後者の意味で使っている人もいるようです。英和辞典でWalloonを調べると、たいていの辞典では「ワロン人が話すフランス語方言」などと書かれており、研究社の新英和中辞典では「ワロン語《ベルギーなまりのフランス語》.」となっています。

英英辞典で調べた結果も似たような感じですが(Definitions of walloon - OneLook Dictionary Search)、American Heritage(American Heritage Dictionary Entry: Walloon では次のような語義が掲載されています。

The Romance language traditionally spoken by the Walloons, descended from the Langue d'oïl and closely related to French. The use of Walloon has declined in modern times, and many Walloons now speak French in daily life.

ベルギーで話されているフランス語が、フランス国内の標準フランス語と少々異なるのはよく知られています。また、ベルギーという国が連邦制を取っており、3つの公用語それぞれの共同体と、フランデレン、ワロン、ブリュッセル首都圏という3つの地域で構成されていることから、ワロン地域の人々が話しているフランス語を「ワロン語」と呼ぶと解釈されているのかもしれません。

ワロン語」については、『ベルギーを知るための52章』という書籍の章の1つで解説されているのですが、これを読む限りではベルギーの公用語のフランス語とは別の言語であり、ワロン地域内のさまざまな地域語(リエージュ語、ナミュール語、ワロン=ロレーヌ語…)の総称です。現在の話者は約60万人ですが、ワロン語復権活動も起きているそうです。

日本人にとって「ワロン語」はなじみがない固有名詞かもしれませんが、Walloon languageがyour languageである人にとっては、その名前は自分たちのコミュニティを特徴付けるものなので、それを尊重してもよいのではと思います。また、原文でWaloon or Waziriという形で並べられているのを考えると、日本語でも「ワロン語とワジリスタン方言」と、「ワ」で始まる名前を並べるほうがよいのではと思いました。遠く離れた2地点の地域語の祖語が同じであることを示したければ、ここに挙げるのはWaziristani dialectではなくその親のPashtoでもかまわないし、「フランス語の一種」ではなくフランス語そのものでもかまわないはずです。

Waziristani dialect - Wikipedia

ちなみにWikipediaでのWalloon languageの解説によれば、かつてはフランス語の方言と分類されていたものの、現在ではオイル語系のa languageとされているようです。

Walloon language - Wikipedia

ずっと前に欧州周遊旅行でベルギーに立ち寄ったのがきっかけで、この国に関心を持つようになりましたが、知れば知るほど国と言語についていろいろ考えさせられます。

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